国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
5.彼女の魅力
「はい、毎度」
 片眼鏡の白髭にお金を払うと、三冊の魔導書をクリスは手にしていた。そのうちの一冊をフローラに手渡す。
「え、っと」
「私からのプレゼントです。あなたはこれで、もう少し魔法の勉強をしたほうがいいでしょう」
「ですが」
 フローラは、クリスが差し出した本を、なかなか受け取ろうとはしない。
「いいですから、お気になさらず。それとも私に恥をかかせる気ですか?」
「いえ、あの……。ありがとうございます、クリス様」
 そんな初々しいやり取りを見守っていた片眼鏡の白髭だが、どうやら気になることがあったようだ。
「おい、クリス。なんだお前。付き合ってる彼女に、様付けで呼ばせているのか?」
「私は、クリスでいいと言ったんですよ。それでも彼女は頑なに敬称を外さないのです。ですがね、慣れてしまうと彼女を支配しているような気持ちになって、これも悪くはないのですよ」
「ふーん」
 白髭は頷いた。
「ま、二人のことだから俺は口を挟まないが。せいぜい彼女に愛想尽かされないようにしろよ」
「師匠からの僻みの言葉だと思って、受け取っておきます」
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