国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
9.彼の嫉妬
 フローラがジェシカの護衛を次の護衛騎士と交代したところで、今日の仕事は終了である。
 この後、あのサミュエルと会う約束をしていたことを思い出すと、気が重くなった。しかも職務中に個人的なことで声をかけてくるとは、規律違反だ。
 恐らくサミュエルはこの王宮の裏門を出たところで待っているだろう。いつもそうだったから。
「フローラ」
 やはり、彼はそこにいた。
 フローラも職務終わりの騎士服の姿なら、サミュエルも同じ騎士服姿だ。だがそのデザインが異なるのは、フローラが護衛騎士という必要時にだけ激しく動くという職に対し、サミュエルは警備という常に身軽に動く必要がある職であるため。
「さっきは、その。ごめん。だけど、ああでもしないと君が捕まらないと思って」
「それで、どんな用?」
「いや、その……。だから。君とやり直したいんだ。やはり、俺にはフローラ、君が必要だ」
 サミュエルが両手を広げてフローラを抱きしめようとしてきたため、彼女はひょいとそれを避けた。今までの彼女なら、黙ってその腕に抱かれていただろう。
「ごめんなさい、サミュエル。もう、あなたとは終わったから」
「だから、やり直したいんだ。もう一度」
 行き場を失った彼の手。その手をどうしようか悩んだサミュエルは、気まずそうに腕を組むことにしたようだ。
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