国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
10.二人の時間
 フローラの部屋は、どことなく甘い香りで満たされている。
 護衛騎士という特殊な職務であるが、すぐに駆け付けることができるようにあの裏門からはすぐのところにある自宅。ある程度プライベートが確保できるように小さな一軒家。それはやはり、普段の職務との兼ね合いなのだろうと思われる。
「あの、クリス様。お夕飯はお召し上がりになられましたか?」
「そう言われれば、まだでしたね」
「あの、でしたら、私が作りますので、よろしければ……」
「それはぜひともお願いしたいところです」
 クリスが目尻を緩めてそう言うと、フローラもほっと一息をついて、ゆっくりと微笑み返した。それから急いで着替えを済ます。騎士服を脱いで、動きやすいワンピース姿へと着替える。
 フローラは毎日この自宅に戻ってくるわけではないため、今ある食料は保存食が主だった。つまり、日持ちがするような食料。それは遠征でもよく口にするもので、彼女はそれを器用に調理する。
 サミュエルは「またこれか」とか「たまには別なものが食べたい」とか、よく口にしていた。だったら一緒に買い物に行こう、と誘えば「俺は疲れてるから、一人で行ってきて」
「ひゃっ」
 思わず背中に感じた気配に、フローラは悲鳴をあげてしまった。
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