ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
エピローグ


 灯至は粧子達を直ぐに槙島スカイタワーの最上階へと呼び戻した。

「そのままにしておいてくれたの?」
「ああ」

 粧子が使っていたゲストルームは手付かずのまま荷物が残されていた。
 ところが、他の部屋は随分と様変わりしていた。ゲストルームのうちひとつは立派なベビールームになっていたし、リビングに至っては茅乃のために家具のあちこちガードがつけられ、可愛らしいベビーエリアまで出来ていた。
 ベビーエリアに置かれていたおもちゃの中に見覚えのあるキリンの歯固めを見つける。

「あ、これ……。色違いを持っているわ。茅乃のお気に入りなの」
「そうだろうな。どちらを渡すか悩んだ結果、明音に色違いを持たせたからな」
「灯至さんが選んでいたの?」

 灯至が赤ちゃん用品を選んでいる姿なんて想像できない。

「なんなら明音より詳しくなった。俺に出来ることといえば贈り物を選ぶぐらいしかなかったからな」
「嬉しい……」

 灯至の唇が近づいてくる。口づけの予感に胸をときめかせていると、自分を忘れるなと言わんばかりにふんぎゃーと泣きながら茅乃が這い寄ってきた。

「少しは空気を読めよ……」

 灯至は茅乃を抱き上げると、窓際に立ち外の景色を見せてやった。

「ほーら、よく見ておけよ。ここが今日からお前が暮らす街だからな」
「んきゃっ!!」

 茅乃がきゃっきゃっと外の景色に気を取られている隙に、灯至に抱き寄せられ口を塞がれる。
 
 蕩けるような口づけの甘さがこの幸せが夢ではないことを教えてくれる。

 愛する夫と娘との三人暮らしは今まさに始まったばかりだ。



おわり
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