ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい



 何を贈るのがいいかしら……。

 粧子はここ数日悩んでいた。
 灯至から贈られたダイヤモンドをあしらった蝶の髪留めは誰が見ても上等な品物だった。そもそも灯至が買い与えるものに安物はないのだけれど、今は一旦意識の端に置いておく。
 そんな高価な物をもらっておいてお礼もせずにのほほんと過ごすなど、粧子の道徳心が許さない。

 本来なら若女将時代に培ったお礼状の腕前を見せつけたいところだが、夫婦間でお礼状をやり取りするのもいかがなものかと。ここは贈り物には贈り物で返すのが礼儀だろうと思い、何を贈るべきかしばらく考えこんでいた。
 しかしながら、世の女性が男性に何を贈るのが普通なのかわからない。平松家では記念日にプレゼントを贈り合う習慣がなかった。
 そこで粧子は身近な女性にヒアリングすることにした。

「あの……栞里さんはジローさんへどのような物を贈ったことがございますか?ご参考にしても?」

 持ち帰り用の紙袋の在庫を数えていた栞里は、手を止め粧子を振り返った。
 ヒラマツでは仕事中の私語は厳禁だったが、SAWATARIでは繁忙時以外は自由なコミュニケーションが許されている。

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