もう一度、重なる手
2.味方

 翌日の昼休み。私はなんとなく浮かない気持ちで、オフィスビルの一階にあるカフェに入った。

 普段なら午後からの仕事に備えてちゃんと昼ごはんを食べるところだが、サンドイッチやパスタなどのカフェメニューを見てもあまり食欲が湧いてこない。

 迷った末に、私はホットのロイヤルミルクティーを頼むと、入口付近のテーブルに腰を落ち着けた。

 熱々のミルクティーのカップに口をつけて少し啜ると、カバンの中から読みかけの文庫本を開く。昨日、読み終わったらアツくんに貸すという約束をしたミステリー小説だ。

 結末までは、あと少し。頑張れば昼休み中に読んでしまえそうな分量だったが、今日はイマイチ、本の内容がひとつも頭に入ってこない。

 こういうときに読むのはダメだ。

 私は文庫本を閉じてテーブルの上に置くと、また少しミルクティーを啜った。

 趣味の読書にすら乗り気になれない理由は、自分でもわかっている。

 昨日の夜に翔吾くんと交わした約束が、私を憂鬱な気分にさせているのだ。

 昨夜、私の家に泊まって、うちから出勤していった翔吾は、私とは反対に朝から機嫌がよかった。彼の両親と会うことに対して、私がやっと前向きな返事をしたから嬉しかったのだろう。

 同じベッドの中で目覚めた私に、朝からシャワーのようなキスを浴びせてきた。

 翔吾くんが喜んでくれている。それがわかりすぎるほど伝わってくるのに、私の気持ちは悲しいくらいに彼の気持ちに比例していない。

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