罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~

16 大好きな友達です

 リナリアが馬車の待合室に入ると、ピンク色の髪が見えた。珍しいストロベリーブロンドの髪を持っているのは、この学園内では友人のケイトだけだ。

 リナリアに気がついたケイトが笑顔で手を振ってくれる。他の生徒たちはもう帰ったようで、待合室にはケイトしか残っていない。

「お帰り、リナリア。ゼダ様とのデートは楽しかった?」
「う、うん、それなんだけど……」

 ケイトは、リナリアとゼダが付き合っていると勘違いしている。しかし、明日からはシオンの恋人のふりをすることになっているので、今ここで誤解を解かないとややこしいことになってしまう。

 ケイトは「ゼダ様って、殿下たちの護衛だよね? 真面目そうだし素敵だわ」とうっとりしている。

「ケイトは、ゼダ様みたいな方が好きなの?」

「好きっていうか、ああいう人となら幸せになれそうって思うわ」

 誰もが振り返る美少女ケイトが、ゼダをほめるのは意外だった。確かにゼダは真面目そうな好青年だが、髪色も瞳の色もブラウン系で、どちらかというとリナリアと同じ『モブ』と呼ばれるような外見だ。

 それがダメだというわけではないが、ケイトにはもっと華やかな男性が似合うのにと思ってしまう。

(うーん、きっと私とシオン殿下が一緒にいるところを見た人も、『シオン殿下にはもっと華やかな女性が似合うのに』と思うわね)

 だからこそ、ケイトの兄サジェスも『どうしてこんなモブ女が妹の友達なんだ?』と怒っている。

(そんなことを言われても、仲良くなった友達がたまたま美少女だったんだから仕方ないじゃない)

 そして、初めて好きになった人がたまたまこの国の王子でとんでもない美形に成長していたのだから仕方ない。

(私ってもしかして、美形好き? いやいや、いくら顔が良くてもサジェスとかローレルみたいな人は絶対に嫌だもの。やっぱり人は中身が大切よ)

 そんなことを考えていると、ケイトは自分の頬に両手をそえてフゥとため息をついた。

「私ね、昔から変な人にからまれることが多くて……。だから、人を見る目だけはしっかりしている自信があるの。リナリアとゼダ様はとても良い人よ。これは断言できるわ」

「ありがとう……と言いたいところだけど、実は私、そんなに良い人でもないの」

 純粋に信じてくれているケイトに罪悪感を覚えながら、リナリアは「ゼダ様とはお付き合いしていないわ。私、本当はシオン殿下とお付き合いしているの」とウソを重ねた。

(恋人のふりだけど、それは言えない……ごめんね、ケイト)

 どこから秘密が漏れるか分からない。作戦を成功させるためには、ケイトにすら真実を黙っておいたほうがいい。

 ケイトは大きな瞳をさらに大きく見開きながら「シオン殿下?」と呟いた。

「シオン殿下ってあのシオン殿下!? それって大丈夫なの!?」

 シオンの悪評を知っている人なら心配して当然だ。

「大丈夫、大丈夫。すごくお優しいわ」
「そ、そう?」

 ケイトは何か言いたそうだったが、それ以上何も言わなかった。リナリアが、気まずくて視線をそらすとケイトのお迎えの馬車がとまっているのが見えた。
 
「……あれ? ケイト、お迎えの馬車、もう来ているわよ」
「あ、うん、今日は貴女が来るのを待っていたの。……これ」

 ケイトは、戸惑いながら白い封筒を出した。

「これ、サジェスお兄様が貴女にどうしても渡してほしいって。何度も断ったんだけど、しつこくて……」

 大嫌いなサジェスの名前を聞くと、リナリアは無意識に頬が引きつってしまう。

「お兄様に『ひどいことは書いていないよね?』って何度も確認したから、大丈夫だと思うけど」

 ケイトは琥珀色の綺麗な瞳でこちらを見つめながら「やっぱり、捨てたほうが良かった?」と聞いてくれた。

「いえ、一応読むわ」

 封筒をさわって確認したが、おかしなものは入っていなさそうだ。

(開けたらカミソリが入っていて、指が切れるとかないわよね?)

 リナリアが慎重に封筒を開けると、中には一枚だけ紙が入っていた。そこには荒々しい字で『学園内の庭園噴水前にて待つ。必ず一人で来い』とだけ書かれている。

 横から手紙を覗いていたケイトが「何これ、果たし状?」と怒りで声を震わせた。

「お兄様の手紙なんて受け取らなければ良かった!」

 ケイトはリナリアから手紙を取り上げるとグシャグシャに丸めて待合室の角に置かれているゴミ箱に投げ入れた。

「リナリア、行かなくていいからね! お兄様なんて、ずっと一人で待っていたら良いんだわ!」

 感情的になったケイトは「ご、ごめ、リナリア、いつもお兄様が失礼なことをしてごめんなさい。私と友達、やめないで……」と泣き出してしまう。

「やめるわけないでしょう? サジェスは大嫌いだけど、貴女のことは大好きよ。それに、私のほうこそシオン殿下とのことを今まで黙っていてごめんなさい」

 そう伝えると、ケイトは涙を指でぬぐいながら「それはいいの、本当のことを言ってくれて嬉しかったから。気にしないで」と笑ってくれた。

「ありがとう。私もサジェスのことは気にしていないわ。だから、ケイトも気にしないでね。また明日」
「うん、また明日」

 ケイトはまだ涙が乾かない頬に笑みを浮かべながら馬車に乗り込んだ。リナリアは、そんなケイトを見送りながら『私は一人っ子だから、兄弟や姉妹に憧れていたけど、なんだかどこも大変そうね』とため息をついた。

「さてと」

 ケイトが捨てたサジェスの手紙をゴミ箱から拾いシワを伸ばす。

「学園内の庭園噴水前、ね」

 あのサジェスのことだから無視して帰ると、明日以降、何をされるか分からない。明日からは『シオンの恋人のふりをする』という重大任務が待っているので、それをサジェスに邪魔されるわけにはいかない。

(なんの用だか知らないけど、話だけは聞いてあげるわ)
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