罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~

20 恋人のふりがはじまりました

 黒百合の紋章が入った王家の馬車が学園内へと入って行く。馬車だけを見ても、シオンかローレルのどちらが乗っているのか分からない。

 馬車降り場は、王子に一目お目にかかろうとする生徒たちで溢れていた。そんな生徒たちをカーテンの隙間から見ていたリナリアは、今さらながらに憂鬱な気分になった。

(今からあの人たちの中に降りていくのね……。しかも、シオンの恋人のふりをしながら)

 馬車がとまると、シオンが先に降りた。ローレルほどではないが、黄色い悲鳴や小さな歓声が上がっている。そんな生徒たちを見ることなくシオンは、輝くような笑みを浮かべながらリナリアに右手を差しだした。

 どうやらエスコートをしてくれるようだ。

(恋人のふりだもんね)

 リナリアが覚悟を決めてシオンの手をとり馬車から降りると、辺りはシンッと静まり返った。あまりの気まずさにリナリアがうつむくと、シオンは何食わぬ顔でリナリアの腰に手を回し抱きよせる。

 ザワッとざわめく生徒たちを無視して、シオンはリナリアの腰に手を回したまま歩き出した。背後から「シオン殿下の新しい恋人!?」「あれが!?」と失礼な言葉が聞こえてくる。

(そう言いたくなる気持ち分かるわ……)

 華やかなシオンに釣り合っていないことは、リナリア自身が一番よく分かっている。でも、この『恋人のふり』はシオンの悪評をなくすという重大な使命を帯びていた。

(私なりに精一杯がんばろう! 今はシオンの彼女なんだもの、幸せそうな顔をしないと!)

 リナリアが顔をあげて幸せそうに微笑むと、ざわめく生徒たちの中に目立つ赤髪が見えた。

(うわ、サジェスだ)

 サジェスは、信じられないものを見てしまったように目を見開いている。リナリアの頭の中に『モブ女のくせに!』という言葉がよぎり身体が強張ってしまう。

 リナリアがサジェスから目を離せないでいると、急に目の前にシオンの顔が現れた。

「リナリア、よそ見しないで」

 すねるような口調でそう言ったあとに、シオンがリナリアの髪に優しく口づけをすると、女生徒たちの間から悲鳴のような声が上がった。

「……すみません」

 周囲に聞こえないようにシオンに謝ると、リナリアは、恋人に見えるように、そっとシオンの腕に寄り添った。
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