罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~

22 【伯爵令息次男サジェスの記憶②】

 サジェスは、すぐに「違う!」と叫んだが、友人たちはどこかあきれたような目を向けてくる。

「いや、違わないって。ということは、さっきの罰ゲームの話も、サジェスがわざと負けて勢いでリナリア嬢に告白するつもりだったのか?」

「あー、なるほど! って、それはやめとけ! 絶対に成功しないぞ!? サジェスは、顔が良くてすごくモテるのに中身は残念なやつだったんだなぁ。なんか俺、お前に親近感が湧いてきたわ」

「俺も。サジェスは、モテるし美少女の妹ケイトちゃんがいるしで勝ち組すぎて、ときどき無性に殴りたい衝動にかられていたが、今後はお前ともっと仲良くなれそうだ」

 アハハと笑い飛ばされて、怒りで全身が震えた。サジェスが何かを言う前に、今まで黙って聞いていた友人にポンッと肩を叩かれた。

「サジェス。これは、真面目な話だけど、リナリア嬢に変にからむのはやめたほうがいいよ。まさか、酷いことを言ったり、相手が嫌がったりすることはしていないよね?」

 サジェスが黙り込むと「やっちゃったあとか」とため息をつかれた。

「だったら、すぐにリナリア嬢に今までのことを謝るべきだよ。俺も子どものころ、幼馴染の女の子を好きになって、気を引きたくてしつこくからかっていたら嫌われてしまって……。学園で久しぶりに再会したけど、未だに視線すら合わせてもらえないんだ。その子、昔から可愛かったけど、さらにすごく可愛くなってて……。俺は、あの時のことをやり直せるなら、本当にやり直したいよ!」

 友人に真剣な目を向けられて「サジェスは、リナリア嬢に嫌われたいの?」と聞かれた。

 リナリアに視線も合わせてもらえなくなる。そう考えるとすぐに『嫌だ』という答えが出た。サジェスが黙り込んでいると、さっきまで笑っていた友人も笑うのをやめた。

「うーん。サジェスは顔が良いから、今まで何もしなくても女のほうが寄ってきたんだろうな。女に囲まれても嫌そうにしていたし、女好きって感じでもないからなぁ」

「ああ、なるほど。それまで女を鬱陶しいと思っていたのに、リナリア嬢に出会って初めて人を好きになって、どうしたらいいか分からないって感じか?」

「まぁ、それにしてもさっきの罰ゲーム発言はヤバかったけどね」

「さすがに、あれはリナリアちゃんが可哀想すぎるだろ」

 気がつけばサジェスは、リナリアを馴れ馴れしく『リナリアちゃん』と呼んだ友人の襟首をつかんでいた。

「サジェス!? どうした?」

「モブ女を馴れ馴れしくちゃん付けで呼ぶな!」

 友人は「お前……『ケイトちゃん』呼びは許せて『リナリアちゃん』呼びは許せないとかガチじゃん」と驚いている。

「違う!」

「違わないって。でもな、サジェス。お前がリナリア嬢にやろうとしたことは、マジで最低なんだぞ? お前がリナリア嬢にしていることを、別の男がお前の妹にしたら、どんな気分よ?」

 ケイトが他の男に罵られたり、罰ゲームでウソの告白されて騙されたりする姿を想像したら血の気が引いた。

「さっさとリナリア嬢に謝ってこい、な?」
「それか、もう一生リナリア嬢に近づかないか、だなぁ」

 リナリアに二度と近づかないなんて絶対に嫌だった。だからといって、リナリアに今までのことを謝るのも嫌だ。それ以前に、もういろんなことが間違っている。

「……違う! 俺はモブ女のことなんて好きじゃない!」

 友人たちは、またお互いに顔を見合わせた。

「まず、そこを認めないのかよっ!?」
「でもさ、サジェスは、今までずっとリナリア嬢のことをモブ女呼ばわりしてきたってことだろう? 謝ったところで、もう手遅れかもなぁ」
「初恋って、叶わないよねぇ……」

 盛大にため息をつかれて、その場はお開きになった。

 その日から、サジェスはよく分からない感情に苦しめられた。この苦しみの原因が、リナリアだということだけは分かっている。

(あんなやつのことなんて好きじゃねーし!)

 それなのに気になって仕方がない。

(ああ、もう! 俺はどうしたらいいんだよ!?)

 自分が何がしたいのか分からない。悩んだ末に、リナリアを騙して泣かせたという男に仕返しをして、リナリアに恩を売ってやろうと思いつき、リナリアを呼び出した。

(そうすれば、モブ女も少しは俺に感謝するよな!)

 リナリアに感謝されればこの苦しみも薄れるかもしれない。そう思っていたのに、怒ったリナリアに「貴方なんて大っ嫌い」と言われてしまった。

(……くそっ!)

 苛立ちながら過ごしていると、リナリアと第二王子シオンがイチャつきながら登校する姿を目撃した。何かの間違いだと思いたかったが、すぐに二人が付き合っていると学園中のウワサになった。

 昼休みにいつものように仲の良い男子生徒たちと集まっていると、みんながみんな、憐れむような瞳をサジェスに向けてくる。

「サジェス、その、大丈夫か?」
「何がだよ」

「そりゃ、なぁ?」
「まぁ、シオン殿下が相手じゃ俺らには勝ち目ねぇし」

 その言葉で、今朝見た光景がサジェスの頭をよぎった。どこかうっとりとした顔でシオンを見つめるリナリアを思い出すと、サジェスは怒りで叫んでしまっていた。

「あの、バカ女っ!? どう考えてもおかしいだろう!? どうしてモブ女が王子と付き合えると思うんだよ!?」
「サジェス……。まぁ、これでも食って落ち着け、な?」

 友人が棒状のお菓子を無理やり口に突っ込んでこようとする。

「いらん! やめろ!」

 さっきから、友人たちの励ますような優しさに腹が立って仕方がない。

「アイツは絶対、シオン殿下に騙されている!」

 そうじゃなければおかしいと、サジェスは本気で思った。
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