罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~
23 不思議なことが起こりました
リナリアは、シオンとピッタリとくっつきながら学園内を歩いた。そんな二人を見た生徒たちはポカンと口を開けてこちらを凝視する。
「大丈夫だよ。リナリアは何も心配しなくていいからね。私が必ず守ってあげるから」
「は、はい。頑張ります!」
シオンは、リナリアを教室まで送ってくれた。
先に教室に来ていた友人ケイトが、シオンの姿を見て大きな瞳をさらに大きく見開いている。その表情が先ほど見かけたサジェスと重なり、顔は少しも似ていないのに二人は確かに兄妹なのねとリナリアは思った。
シオンはリナリアの腰から手を離すと、名残惜しそうに「また、あとでね」と言いなから、リナリアの手の甲にキスをしてから去って行った。
教室内は、すでにけっこうな数の生徒がいるにもかかわらず静まり返っている。気まずい空気の中、リナリアはケイトに近づくと「おはよう」と小声で挨拶をした。
「お、おはよう。貴女がシオン殿下とお付き合いしているって話、本当だったのね……」
「うん」
リナリアがケイトに話しかけたことで、教室内にサワサワと他の生徒たちの声が広がっていく。その内容は決して好意的なものではない。
「どういうこと?」「今のシオン殿下だよな?」
クラスメイトたちのヒソヒソ話が聞こえてくるが、それ以上のことは起こらない。なぜならこの学年には、伯爵家以上の令嬢がいないから。問題はシオンの婚約者にもなれるくらいの地位を持つ、公爵家や侯爵家の令嬢たちだ。
(確か、私より上の学年に在学していたはず……)
いつか呼び出されるかもしれないと思っていると、教室内に「そこの貴女、ちょっと良いかしら?」とよく通る綺麗な声が響いた。
そこには知らない女生徒がリナリアを指さしている。制服のリボンが青色なので、シオンと同じ学年だと分かった。側にいたケイトが小声で「確か、侯爵令嬢の先輩よ」と教えてくれる。
「そこの貴女、リナリアさん、でしたか? お話があります」
「は、はい!」
さっそく呼び出しをくらってしまった。心配したケイトが「私も一緒に行くわ」と言ってくれたが丁重に断り、一人で先輩についていく。
リナリアの予定では、これから先輩の取り巻きの女生徒たちに囲まれて罵られる予定だったが、取り巻きの姿はどこにもない。
リナリアの前を歩く先輩は、人気がない場所に着くと、くるりと優雅にリナリアを振り返った。
「リナリアさん、貴女にお話があります」
「はい!」
いきなり頬を叩かれ『シオンは私のものよ!』と言われるくらいの覚悟をしていると、予想外に先輩は「大丈夫でして?」と心配そうに聞いてきた。
「大丈夫、とは?」
リナリアが聞き返すと、先輩は聞かれてはまずいことを伝えるように小声で「シオン殿下のことです」と囁いた。
「貴女は学年が違うから知らないのでしょうが、シオン殿下はとてもおススメできる方ではありません。私の友人も遊ばれ振り回されて泣かされたことがあります」
「あ? えっと、あれ?」
「このようなこと、大きな声では言えませんが、昔からシオン殿下は乱暴で、王宮でのお茶会でもひどい目に遭わされた方が何人もいるのですよ」
先輩はとても真剣で、本気でリナリアを心配してくれていることが分かった。
「せ、先輩は、どうしてそれを私に教えてくださるのですか?」
「だって、貴女が新しいシオン殿下の恋人と聞いて、わたくし、心配になってしまったのです」
(……なんだろう、このものすごく性格の良い綺麗な先輩は)
急に呼び出されたことで驚きすぎて、今まで気がつかなかったが、先輩はとても美人だった。ケイトが愛らしい小動物系の美少女だとすれば、先輩は洗練された気品を持つ色っぽい美女だ。先輩が動くたびに、光沢を持つ銀色の髪がサラサラと揺れ、こちらを見つめる瞳はサファイアのように美しい青色だ。
先輩にもう一度「大丈夫ですか?」と聞かれてリナリアは我に返った。
「はい、大丈夫です。あの、先輩は、シオン殿下のことがお好き……?」
リナリアが『お好きなのですか?』と言い切る前に、先輩は嫌そうに顔をしかめて全力で首を振った。
「ありえません! わたくし、不誠実な方は、大っ嫌いです!」
「あ、はい……」
先輩は、「いいですか、何かつらいことがあれば、いつでも私が相談にのりますからね」と言って優雅に去って行った。
リナリアは、先輩の後ろ姿を眺めながら、『シオンって、本当に恋多き男なのね』と思った。
その日の昼休み。
リナリアがケイトと学園内のガーデンの休憩所でお弁当を食べていると、今朝知り合った美しくかつ優しい侯爵令嬢の先輩が現れた。
「あれ? 先輩、どうしたんですか?」
リナリアが膝の上のお弁当を横に置いてから立ち上がると、先輩は勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません!」
「え?」
「け、今朝、私が貴女にお伝えしたことは全て勘違いですの! し、シオン殿下はとても素晴らしいお方です!」
先輩はカタカタと小刻みに震えながら、青い瞳をせわしなく左右に動かしている。
「えっと?」
「シオン殿下とリナリアさんは、と、とてもお似合いですわ!」
それは、まるで誰かに言わされているような棒読みの台詞だった。先輩は「わたくし、心の底からお二人を祝福いたします!」と言うと急いでその場をあとにした。
意味が分からずリナリアがケイトを見ると、ケイトもポカンと口を開けている。
「先輩、急にどうしたんだろう?」
「さぁ?」
二人してお弁当を食べ終わると、先輩とは別の女生徒二人に声をかけられた。
「貴女がシオン殿下の新しい恋人のリナリアさん?」
「あ、はい」
女生徒たちは「ふーん?」と言いながらリナリアを上から下まで眺めた。
「貴女、その外見でよく殿下のお側にいられるわね?」
「私だったら恥ずかしくて無理だわ」
女生徒たちはそんなことを言いながらクスクスと笑っている。
ケイトが「失礼なこと言わないで!」と怒ってくれたが、その通りなのでリナリアは特に反論をせずにその場を立ち去った。あとをついてきたケイトが「言い返さなくて良かったの?」と聞いてくれたので、リナリアはうんと頷く。
「まぁ、あれくらいは覚悟の上だから」
リナリアが笑うと、ケイトは「私は許せないわ」と言いながらリスのように頬を膨らませた。
「ケイト、その顔、すごく可愛いわよ」
「もうっ! 私は怒っているのに!」
「ごめんごめん、私のために怒ってくれてありがとう。ケイトが味方でいてくれるから私は平気よ」
そう言うとケイトは「もう!」と言いながらも機嫌を直してくれた。
その日の放課後。リナリアは、昼休憩のときに嫌味を言ってきた女生徒たちにまた声をかけられた。彼女たちは、前に会ったときとは違い顔色が悪い。
リナリアが「なんの用ですか?」と尋ねると、女生徒たちは顔を見合わせた。
「ひ、昼間は大変申し訳ありませんでした!」
「シオン殿下とリナリアさんは、とてもお似合いです!」
そう言う彼女たちの声は震えている。
「急にどうしたんですか?」
リナリアが不思議に思って尋ねると、女生徒たちはさらに青ざめた。
「ど、どうもしないわ! ね?」
「う、うん、何もないけど、急に二人がお似合いだって、私たち、気がついたの! だから、貴女に謝りたくて!」
挙動不審な二人を見ていると、リナリアは、同じように急に態度を変えた侯爵令嬢の先輩を思い出した。
「……もしかして、何かあったんですか? 例えば、誰かに何か言われた、とか?」
女生徒たちは、怯えるように首を左右に振る。
「ち、違うわ! 何もないの!」
「誰にも何も言われていないわ! 本当よ、お願い信じて!」
あまりに必死な女生徒たちにリナリアは驚きながら「分かりました」と答えると、二人はそろって安堵のため息をついた。
「そういうことで、シオン殿下とお幸せに、さようなら!」
二人の女生徒は逃げるように去って行く。
「なんだったんだろう……」
リナリアがぼうぜんとしながら、二人の後ろ姿を眺めているとポンッと肩を叩かれた。振り返ると、そこには、にこやかな笑みを浮かべたシオンが立っている。
「一緒に帰ろう、リナリア」
「はい、シオン」
シオンは、まるでそうすることが当たり前のようにリナリアと手を繋いだ。
「リナリア、今日はどうだった?」
「うーん、それがちょっとおかしなことがあって……。上手く説明できないんですけど……」
シオンの指は、自然とリナリアの指の間に入り、気がつけば繋いだ手は恋人繋ぎになっている。
「リナリアは、そのことで今日、嫌な気分になった?」
「いえ、大丈夫でした」
「そう、なら良かった」
嬉しそうに微笑むシオンを見て、リナリアは、『もしかして、シオンが彼女たちに何か言ってくれたのかな?』と思ったが、先輩や女生徒たちが、なぜか異常に怯えていたことを思い出し『それはないか』とすぐに思い直した。
「大丈夫だよ。リナリアは何も心配しなくていいからね。私が必ず守ってあげるから」
「は、はい。頑張ります!」
シオンは、リナリアを教室まで送ってくれた。
先に教室に来ていた友人ケイトが、シオンの姿を見て大きな瞳をさらに大きく見開いている。その表情が先ほど見かけたサジェスと重なり、顔は少しも似ていないのに二人は確かに兄妹なのねとリナリアは思った。
シオンはリナリアの腰から手を離すと、名残惜しそうに「また、あとでね」と言いなから、リナリアの手の甲にキスをしてから去って行った。
教室内は、すでにけっこうな数の生徒がいるにもかかわらず静まり返っている。気まずい空気の中、リナリアはケイトに近づくと「おはよう」と小声で挨拶をした。
「お、おはよう。貴女がシオン殿下とお付き合いしているって話、本当だったのね……」
「うん」
リナリアがケイトに話しかけたことで、教室内にサワサワと他の生徒たちの声が広がっていく。その内容は決して好意的なものではない。
「どういうこと?」「今のシオン殿下だよな?」
クラスメイトたちのヒソヒソ話が聞こえてくるが、それ以上のことは起こらない。なぜならこの学年には、伯爵家以上の令嬢がいないから。問題はシオンの婚約者にもなれるくらいの地位を持つ、公爵家や侯爵家の令嬢たちだ。
(確か、私より上の学年に在学していたはず……)
いつか呼び出されるかもしれないと思っていると、教室内に「そこの貴女、ちょっと良いかしら?」とよく通る綺麗な声が響いた。
そこには知らない女生徒がリナリアを指さしている。制服のリボンが青色なので、シオンと同じ学年だと分かった。側にいたケイトが小声で「確か、侯爵令嬢の先輩よ」と教えてくれる。
「そこの貴女、リナリアさん、でしたか? お話があります」
「は、はい!」
さっそく呼び出しをくらってしまった。心配したケイトが「私も一緒に行くわ」と言ってくれたが丁重に断り、一人で先輩についていく。
リナリアの予定では、これから先輩の取り巻きの女生徒たちに囲まれて罵られる予定だったが、取り巻きの姿はどこにもない。
リナリアの前を歩く先輩は、人気がない場所に着くと、くるりと優雅にリナリアを振り返った。
「リナリアさん、貴女にお話があります」
「はい!」
いきなり頬を叩かれ『シオンは私のものよ!』と言われるくらいの覚悟をしていると、予想外に先輩は「大丈夫でして?」と心配そうに聞いてきた。
「大丈夫、とは?」
リナリアが聞き返すと、先輩は聞かれてはまずいことを伝えるように小声で「シオン殿下のことです」と囁いた。
「貴女は学年が違うから知らないのでしょうが、シオン殿下はとてもおススメできる方ではありません。私の友人も遊ばれ振り回されて泣かされたことがあります」
「あ? えっと、あれ?」
「このようなこと、大きな声では言えませんが、昔からシオン殿下は乱暴で、王宮でのお茶会でもひどい目に遭わされた方が何人もいるのですよ」
先輩はとても真剣で、本気でリナリアを心配してくれていることが分かった。
「せ、先輩は、どうしてそれを私に教えてくださるのですか?」
「だって、貴女が新しいシオン殿下の恋人と聞いて、わたくし、心配になってしまったのです」
(……なんだろう、このものすごく性格の良い綺麗な先輩は)
急に呼び出されたことで驚きすぎて、今まで気がつかなかったが、先輩はとても美人だった。ケイトが愛らしい小動物系の美少女だとすれば、先輩は洗練された気品を持つ色っぽい美女だ。先輩が動くたびに、光沢を持つ銀色の髪がサラサラと揺れ、こちらを見つめる瞳はサファイアのように美しい青色だ。
先輩にもう一度「大丈夫ですか?」と聞かれてリナリアは我に返った。
「はい、大丈夫です。あの、先輩は、シオン殿下のことがお好き……?」
リナリアが『お好きなのですか?』と言い切る前に、先輩は嫌そうに顔をしかめて全力で首を振った。
「ありえません! わたくし、不誠実な方は、大っ嫌いです!」
「あ、はい……」
先輩は、「いいですか、何かつらいことがあれば、いつでも私が相談にのりますからね」と言って優雅に去って行った。
リナリアは、先輩の後ろ姿を眺めながら、『シオンって、本当に恋多き男なのね』と思った。
その日の昼休み。
リナリアがケイトと学園内のガーデンの休憩所でお弁当を食べていると、今朝知り合った美しくかつ優しい侯爵令嬢の先輩が現れた。
「あれ? 先輩、どうしたんですか?」
リナリアが膝の上のお弁当を横に置いてから立ち上がると、先輩は勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません!」
「え?」
「け、今朝、私が貴女にお伝えしたことは全て勘違いですの! し、シオン殿下はとても素晴らしいお方です!」
先輩はカタカタと小刻みに震えながら、青い瞳をせわしなく左右に動かしている。
「えっと?」
「シオン殿下とリナリアさんは、と、とてもお似合いですわ!」
それは、まるで誰かに言わされているような棒読みの台詞だった。先輩は「わたくし、心の底からお二人を祝福いたします!」と言うと急いでその場をあとにした。
意味が分からずリナリアがケイトを見ると、ケイトもポカンと口を開けている。
「先輩、急にどうしたんだろう?」
「さぁ?」
二人してお弁当を食べ終わると、先輩とは別の女生徒二人に声をかけられた。
「貴女がシオン殿下の新しい恋人のリナリアさん?」
「あ、はい」
女生徒たちは「ふーん?」と言いながらリナリアを上から下まで眺めた。
「貴女、その外見でよく殿下のお側にいられるわね?」
「私だったら恥ずかしくて無理だわ」
女生徒たちはそんなことを言いながらクスクスと笑っている。
ケイトが「失礼なこと言わないで!」と怒ってくれたが、その通りなのでリナリアは特に反論をせずにその場を立ち去った。あとをついてきたケイトが「言い返さなくて良かったの?」と聞いてくれたので、リナリアはうんと頷く。
「まぁ、あれくらいは覚悟の上だから」
リナリアが笑うと、ケイトは「私は許せないわ」と言いながらリスのように頬を膨らませた。
「ケイト、その顔、すごく可愛いわよ」
「もうっ! 私は怒っているのに!」
「ごめんごめん、私のために怒ってくれてありがとう。ケイトが味方でいてくれるから私は平気よ」
そう言うとケイトは「もう!」と言いながらも機嫌を直してくれた。
その日の放課後。リナリアは、昼休憩のときに嫌味を言ってきた女生徒たちにまた声をかけられた。彼女たちは、前に会ったときとは違い顔色が悪い。
リナリアが「なんの用ですか?」と尋ねると、女生徒たちは顔を見合わせた。
「ひ、昼間は大変申し訳ありませんでした!」
「シオン殿下とリナリアさんは、とてもお似合いです!」
そう言う彼女たちの声は震えている。
「急にどうしたんですか?」
リナリアが不思議に思って尋ねると、女生徒たちはさらに青ざめた。
「ど、どうもしないわ! ね?」
「う、うん、何もないけど、急に二人がお似合いだって、私たち、気がついたの! だから、貴女に謝りたくて!」
挙動不審な二人を見ていると、リナリアは、同じように急に態度を変えた侯爵令嬢の先輩を思い出した。
「……もしかして、何かあったんですか? 例えば、誰かに何か言われた、とか?」
女生徒たちは、怯えるように首を左右に振る。
「ち、違うわ! 何もないの!」
「誰にも何も言われていないわ! 本当よ、お願い信じて!」
あまりに必死な女生徒たちにリナリアは驚きながら「分かりました」と答えると、二人はそろって安堵のため息をついた。
「そういうことで、シオン殿下とお幸せに、さようなら!」
二人の女生徒は逃げるように去って行く。
「なんだったんだろう……」
リナリアがぼうぜんとしながら、二人の後ろ姿を眺めているとポンッと肩を叩かれた。振り返ると、そこには、にこやかな笑みを浮かべたシオンが立っている。
「一緒に帰ろう、リナリア」
「はい、シオン」
シオンは、まるでそうすることが当たり前のようにリナリアと手を繋いだ。
「リナリア、今日はどうだった?」
「うーん、それがちょっとおかしなことがあって……。上手く説明できないんですけど……」
シオンの指は、自然とリナリアの指の間に入り、気がつけば繋いだ手は恋人繋ぎになっている。
「リナリアは、そのことで今日、嫌な気分になった?」
「いえ、大丈夫でした」
「そう、なら良かった」
嬉しそうに微笑むシオンを見て、リナリアは、『もしかして、シオンが彼女たちに何か言ってくれたのかな?』と思ったが、先輩や女生徒たちが、なぜか異常に怯えていたことを思い出し『それはないか』とすぐに思い直した。