罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~
05 さすがにこれはやりすぎです
罰ゲームが始まってから一週間たったが、未だに『ウソで口説いていました』というネタバレはなくシオンとの密会は続いていた。
リナリアがシオンに会えるのは、ゼダがシオンの護衛をしているときだけのようで、毎日ではなかったが、一日か二日おきにはシオンに会っている。
(まさかこんなに頻繁にシオン殿下に会えるなんて思っていなかった。迎えに来てくれるゼダ様には申し訳ないわ)
いつものように、案内役のため前を歩く護衛ゼダの背中を見ながら、リナリアはこっそりとため息をついた。
(今のところ誰にも見つかっていないから良いけど、こうしてゼダ様と二人で歩いているところを他の生徒に見つかったら、どうしよう……)
シオンとは毎回場所を変えて慎重に会っているし、会っている間は、ゼダが人が来ないように見張ってくれているので問題はない。
でも、迎えに来てくれたゼダと一緒に歩く姿を見られることは避けられない。今までは不思議と他の生徒と出会ったことはないが、いつかは誰かに見られてしまう。そうなると、ゼダに迷惑がかかる。
リナリアがそんなことを考えながら歩いていると、何度か訪れたことのあるサロンに案内された。
サロンに入るとゼダは扉を閉め、シオンはわざわざソファーから立ち上がってリナリアを出迎えてくれる。その光景は、いつまでたっても夢のようで現実感が伴わない。
リナリアは、差し出されたシオンの手に、自身の手を重ねながら遠慮がちに口を開いた。
「あの、シオン殿下」
シオンは『ん?』というように首を少し傾げた。
(なんて、美しくかわいいの……じゃなくて!)
すぐにシオンの美しさに見とれて頭がボーッとしてしまうので、シオンと会話をするときは気をしっかり持たないといけない。
「実はゼダ様のことなのですが」
「ゼダがどうかしましたか?」
「毎回ゼダ様に案内していただくと、ご迷惑がかかるような気がして……」
リナリアが、不安に思っていることをなんとか説明すると、シオンは柔らかい笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。ゼダは、近づく人の気配を察して、他の生徒に会わないように貴女を私の元まで連れて来てくれるので」
そんなことが可能なのだろうかと思ったが、シオンが言うならそうなのだろうと納得できた。
「そうなのですね。ゼダ様はすごいお方なのですね」
ゼダを褒めると、シオンはニコニコと笑みを浮かべながら近づいてきた。
「あの、殿下?」
声をかけてもシオンは立ち止まらず笑顔のままどんどんと近づいて来る。リナリアは後ずさるしかなく、気がつけば部屋の隅まで追い詰められていた。
シオンがゆっくりと右手を壁につけると、リナリアは壁とシオンに挟まれるような格好になってしまった。リナリアが慌てて左から逃げ出そうとすると、シオンは左腕も壁につけて逃げ道を塞ぐ。
(こ、これは、もしかして、あの有名な壁ドンでは!?)
これを『ドン』というには、シオンの追い詰め方は優しすぎるが、今の状況だけを見ると壁ドンだった。物語の中で、ヒーローがヒロインにしているのを読んだことがある。
壁ドンは、知らない男性や興味のない男性にやられると怖すぎるが、気になる相手や好きな相手にされるとときめかずにはいられない行動だ。
(ただの罰ゲームなのに、ここまでしてくださるなんて!?)
もうそろそろシオンに、謝礼金を払ったほうが良いのかもしれないと思ってしまう。それくらい、シオンの罰ゲームには世の全ての乙女の夢が詰まっている。
(ありがとうございます! ありがとうございます!)
リナリアが、心の中でシオンへのお礼を連呼していると、シオンの顔がゆっくりと近づいてきた。
「リナリア嬢」
耳元で優しく名前を呼ばれると、頭に血がのぼってクラクラする。
「私といるのに他の男の話をするなんて、貴女はひどい人だ」
「そんなつもりでは……」
リナリアが必死にシオンから顔を背けていると、フゥと首筋に息を吹きかけられた。背筋がゾクッとして声にならない悲鳴が上がる。リナリアがシオンから少しでも離れようと身をよじるとシオンはさらに距離をつめてくる。
「ねぇ、リナリアって呼んでもいいかな?」
混乱しながら必死に頷くと、シオンは「嬉しいな。私のことはシオンって呼んで」と甘えるような声を出す。
「シオン殿下?」
名を呼ぶと、シオンはクスッと微笑んだ。
「それじゃあ、今までと同じだよ。シオンって呼んで?」
「でも、そんな」
リナリアがためらっていると、シオンは切なげな表情を浮かべた。
「リナリア。君だけにはシオンって呼んでほしいんだ」
(シオン殿下を呼び捨てにするなんて、そんな無礼なことできないわ。というか、何、この良い香りは!?)
香りの元はシオンのようで、爽やかさの中に甘さが混じったような不思議な香りだ。状況も忘れてリナリアが「良い香り」と呟くと、シオンに「私の香りが好き?」と聞かれた。
リナリアがうっとりしながら頷くと、シオンはリナリアの髪を少しだけ指ですくい自身の口元へと持っていく。
「リナリアも、すごく良い香りがするよ」
シオンの仕草や表情は、煽情的(せんじょうてき)とでもいうのか、とにかく色っぽい。遠くから見る分には問題ないが、至近距離で色気を放たれると膝が震えてしまう。
(膝にくる! 殿下の色気は膝にくるわ!!)
こちらは立っているのもやっとなのに、シオンはまだ解放する気がないようで、「シオンって呼んで?」と猫なで声を繰り返してくる。からかわれているだけと分かっていても、シオンにお願いされて断れる女性なんていない。
「……シオン」
勇気を振り絞って名前を呼ぶと、シオンに「聞こえないよ」と言われてしまう。
「シ、シオン!」
どもりながらもなんとか呼ぶと、シオンは嬉しそうにリナリアの髪にキスをした。
(も、無理……)
膝が震えているだけではなく腰の力も抜けてしまい。ガクッとその場に座り込みそうになる。そんなリナリアを、シオンは優しく抱きとめた。
「愛しているよ。私のリナリア」
シオンに愛の言葉を囁かれて、リナリアは冷水を浴びせさせられたように急に我に返った。
(殿下……ひどい)
今までは罰ゲームのために、からかわれても『美味しいわ』『ご褒美だわ』としか思っていなかった。でも、全てウソなのにはっきりと『愛している』と言ってしまうのは、いくらなんでもやり過ぎだ。
(私が何も知らなかったら、この言葉に舞い上がっていたわ)
そして、その様子をバカにされ笑われるのだ。リナリアは、ようやく夢から覚めて現実を見ることができた。
(今の私は『王子様にもてあそばれている、みじめで可哀想なモブ女』なのね)
リナリアは、支えてくれているシオンの腕をやんわりと押し返した。
「殿下、もうやめましょう」
「リナリア?」
あくまで演技を続けるシオンを見て、リナリアは泣きたくなった。
「殿下。私、全部、知っています」
シオンの美しい瞳が大きく見開かれる。
「全部って?」
「言葉の通り、これまでのこと全てです」
「知って、いたの?」
「はい。だからもう、こんなことはやめてください」
リナリアは、「失礼します」と言いサロンから飛び出した。扉の横で護衛のゼダが驚いている。
「リナリア!」
シオンに名前を呼ばれたが、リナリアは振り返らなかった。
優しい言葉をたくさんかけてくれたシオンの口から、知っていたとはいえ真実を聞くのが怖い。
(罰ゲームでもいい! 騙されてもバカにされてもいいって思っていたのに!)
シオンに会って、共に過ごす時間が増えれば増えるほど、シオンをもっと好きになってしまった。
だからこそ、これ以上騙されるのはつらい。
こうしてサジェスが考えたひどい罰ゲームは終わった。
リナリアがシオンに会えるのは、ゼダがシオンの護衛をしているときだけのようで、毎日ではなかったが、一日か二日おきにはシオンに会っている。
(まさかこんなに頻繁にシオン殿下に会えるなんて思っていなかった。迎えに来てくれるゼダ様には申し訳ないわ)
いつものように、案内役のため前を歩く護衛ゼダの背中を見ながら、リナリアはこっそりとため息をついた。
(今のところ誰にも見つかっていないから良いけど、こうしてゼダ様と二人で歩いているところを他の生徒に見つかったら、どうしよう……)
シオンとは毎回場所を変えて慎重に会っているし、会っている間は、ゼダが人が来ないように見張ってくれているので問題はない。
でも、迎えに来てくれたゼダと一緒に歩く姿を見られることは避けられない。今までは不思議と他の生徒と出会ったことはないが、いつかは誰かに見られてしまう。そうなると、ゼダに迷惑がかかる。
リナリアがそんなことを考えながら歩いていると、何度か訪れたことのあるサロンに案内された。
サロンに入るとゼダは扉を閉め、シオンはわざわざソファーから立ち上がってリナリアを出迎えてくれる。その光景は、いつまでたっても夢のようで現実感が伴わない。
リナリアは、差し出されたシオンの手に、自身の手を重ねながら遠慮がちに口を開いた。
「あの、シオン殿下」
シオンは『ん?』というように首を少し傾げた。
(なんて、美しくかわいいの……じゃなくて!)
すぐにシオンの美しさに見とれて頭がボーッとしてしまうので、シオンと会話をするときは気をしっかり持たないといけない。
「実はゼダ様のことなのですが」
「ゼダがどうかしましたか?」
「毎回ゼダ様に案内していただくと、ご迷惑がかかるような気がして……」
リナリアが、不安に思っていることをなんとか説明すると、シオンは柔らかい笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。ゼダは、近づく人の気配を察して、他の生徒に会わないように貴女を私の元まで連れて来てくれるので」
そんなことが可能なのだろうかと思ったが、シオンが言うならそうなのだろうと納得できた。
「そうなのですね。ゼダ様はすごいお方なのですね」
ゼダを褒めると、シオンはニコニコと笑みを浮かべながら近づいてきた。
「あの、殿下?」
声をかけてもシオンは立ち止まらず笑顔のままどんどんと近づいて来る。リナリアは後ずさるしかなく、気がつけば部屋の隅まで追い詰められていた。
シオンがゆっくりと右手を壁につけると、リナリアは壁とシオンに挟まれるような格好になってしまった。リナリアが慌てて左から逃げ出そうとすると、シオンは左腕も壁につけて逃げ道を塞ぐ。
(こ、これは、もしかして、あの有名な壁ドンでは!?)
これを『ドン』というには、シオンの追い詰め方は優しすぎるが、今の状況だけを見ると壁ドンだった。物語の中で、ヒーローがヒロインにしているのを読んだことがある。
壁ドンは、知らない男性や興味のない男性にやられると怖すぎるが、気になる相手や好きな相手にされるとときめかずにはいられない行動だ。
(ただの罰ゲームなのに、ここまでしてくださるなんて!?)
もうそろそろシオンに、謝礼金を払ったほうが良いのかもしれないと思ってしまう。それくらい、シオンの罰ゲームには世の全ての乙女の夢が詰まっている。
(ありがとうございます! ありがとうございます!)
リナリアが、心の中でシオンへのお礼を連呼していると、シオンの顔がゆっくりと近づいてきた。
「リナリア嬢」
耳元で優しく名前を呼ばれると、頭に血がのぼってクラクラする。
「私といるのに他の男の話をするなんて、貴女はひどい人だ」
「そんなつもりでは……」
リナリアが必死にシオンから顔を背けていると、フゥと首筋に息を吹きかけられた。背筋がゾクッとして声にならない悲鳴が上がる。リナリアがシオンから少しでも離れようと身をよじるとシオンはさらに距離をつめてくる。
「ねぇ、リナリアって呼んでもいいかな?」
混乱しながら必死に頷くと、シオンは「嬉しいな。私のことはシオンって呼んで」と甘えるような声を出す。
「シオン殿下?」
名を呼ぶと、シオンはクスッと微笑んだ。
「それじゃあ、今までと同じだよ。シオンって呼んで?」
「でも、そんな」
リナリアがためらっていると、シオンは切なげな表情を浮かべた。
「リナリア。君だけにはシオンって呼んでほしいんだ」
(シオン殿下を呼び捨てにするなんて、そんな無礼なことできないわ。というか、何、この良い香りは!?)
香りの元はシオンのようで、爽やかさの中に甘さが混じったような不思議な香りだ。状況も忘れてリナリアが「良い香り」と呟くと、シオンに「私の香りが好き?」と聞かれた。
リナリアがうっとりしながら頷くと、シオンはリナリアの髪を少しだけ指ですくい自身の口元へと持っていく。
「リナリアも、すごく良い香りがするよ」
シオンの仕草や表情は、煽情的(せんじょうてき)とでもいうのか、とにかく色っぽい。遠くから見る分には問題ないが、至近距離で色気を放たれると膝が震えてしまう。
(膝にくる! 殿下の色気は膝にくるわ!!)
こちらは立っているのもやっとなのに、シオンはまだ解放する気がないようで、「シオンって呼んで?」と猫なで声を繰り返してくる。からかわれているだけと分かっていても、シオンにお願いされて断れる女性なんていない。
「……シオン」
勇気を振り絞って名前を呼ぶと、シオンに「聞こえないよ」と言われてしまう。
「シ、シオン!」
どもりながらもなんとか呼ぶと、シオンは嬉しそうにリナリアの髪にキスをした。
(も、無理……)
膝が震えているだけではなく腰の力も抜けてしまい。ガクッとその場に座り込みそうになる。そんなリナリアを、シオンは優しく抱きとめた。
「愛しているよ。私のリナリア」
シオンに愛の言葉を囁かれて、リナリアは冷水を浴びせさせられたように急に我に返った。
(殿下……ひどい)
今までは罰ゲームのために、からかわれても『美味しいわ』『ご褒美だわ』としか思っていなかった。でも、全てウソなのにはっきりと『愛している』と言ってしまうのは、いくらなんでもやり過ぎだ。
(私が何も知らなかったら、この言葉に舞い上がっていたわ)
そして、その様子をバカにされ笑われるのだ。リナリアは、ようやく夢から覚めて現実を見ることができた。
(今の私は『王子様にもてあそばれている、みじめで可哀想なモブ女』なのね)
リナリアは、支えてくれているシオンの腕をやんわりと押し返した。
「殿下、もうやめましょう」
「リナリア?」
あくまで演技を続けるシオンを見て、リナリアは泣きたくなった。
「殿下。私、全部、知っています」
シオンの美しい瞳が大きく見開かれる。
「全部って?」
「言葉の通り、これまでのこと全てです」
「知って、いたの?」
「はい。だからもう、こんなことはやめてください」
リナリアは、「失礼します」と言いサロンから飛び出した。扉の横で護衛のゼダが驚いている。
「リナリア!」
シオンに名前を呼ばれたが、リナリアは振り返らなかった。
優しい言葉をたくさんかけてくれたシオンの口から、知っていたとはいえ真実を聞くのが怖い。
(罰ゲームでもいい! 騙されてもバカにされてもいいって思っていたのに!)
シオンに会って、共に過ごす時間が増えれば増えるほど、シオンをもっと好きになってしまった。
だからこそ、これ以上騙されるのはつらい。
こうしてサジェスが考えたひどい罰ゲームは終わった。