主役になれないお姫さま

祝えない結婚式

「おめでと~!!」

「きゃー!沙織(さおり)先輩綺麗です~~~!」

青空が広がる空の下、チャペルの鐘が鳴り響き、同僚たちの祝福の声が溢れる中、ひとり不幸のどん底にいた。

「佐々木、美人な嫁さん捕まえたなぁ~!」

すっかり出来上がった部長が新郎に声をかける。

 …新郎新婦、本当に幸せそう。

3か月前まで新郎の佐々木先輩と付き合っていた私は、その時、彼の横でこの日を迎えるのは私なのだと思い込んでいた。
彼が自宅に泊まりに来た時に仕事の書類だと言ってはいたが今いる結婚式場のパンフレットがしっかり封筒から透けて見えていたのだ。
彼とは2年ほど付き合っていた。だからプロポーズを考えてくれているのだと信じて疑わなかった。

突然、結婚するからと言われフラれたが、同じ会社で営業している佐々木先輩と営業アシスタントとして働く私は嫌でも毎日顔を合わせる。

 佐々木先輩と沙織ちゃんはいつから付き合っていたんだろう…。

新婦の沙織ちゃん経理課に所属し、私とは同期にあたる。
クリッとした目が印象的なゆるふわで元気な女の子だ。

別れを告げられた直後、社内では沙織ちゃんが安定期に入ったころに式を行うと報告があった。営業の経費精算で関わったのがきっかけで付き合い始めたと言うのだが、妊娠のタイミングをみると、どう考えても時期がかぶっている。

 彼女はこのことを知っているのだろうか…。

まぁ、誰の目から見ても最低で悪いのは佐々木先輩だ。
おなかに子供がいる同期にショックを与えるようなことはしたくない。そのせいでおなかの赤ちゃんに何かあっても責任はとれない。

「…はぁ。」

笑顔の仮面を貼り付けたまま、小さなため息が漏れた。

彼氏と別れる理由はいつも相手の浮気だった。
そして、私はいつも『選ばれない』側にいて、何度も『選ばれた』女の子たちから悪者扱いをされた。

 私の方が先に付き合っていたのに…。

男を見る目がないのが悪いのか、それとも、浮気されても文句を言えない性格が悪いのか…。

佐々木先輩が二股していた事実をこの場でぶち撒けたらいくらか気も晴れるのかもしれない。しかし、そんなことをしたら会社で噂の的になってしまうので出来るわけがない。

明日も休みだし帰ったら思いっきり自分を甘やかして、ヤケ酒でもなんでもしてやる。それまでは泣くもんか!と、風船が放たれた青空を見上げてごまかした。
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