主役になれないお姫さま

愛されてる実感

副社長との打ち合わせが終わったようで沼田部長と一真さんの2人が戻って来た。

同じフロアにいるだけでドキドキしてしまう。

チラッと一真さんの方を見ると直ぐに目が合った。

何かを考えるように軽く口元に手を当てると人差し指をピコピコと軽く動かして私に向けてサインを送ってくれる。

なんて可愛いことをしてくれるのだろう。
それだけで嬉しくて顔がにやけそうになる。

同じ社内恋愛でも佐々木先輩の時とはまるで違っていた。

「おーい、三浦くん!ちょっと来てくれ。」

沼田部長に大声で呼ばれた。
いつも大声で人を呼ぶのだが、大抵どうでも良い内容なのだ。
しかし、建て前としてメモ帳とペンは必ず持って伺うように心がけていた。

「はい、いま行きます。」

今回もメモ帳とペンを用意して部長の元へ急ぐ。

「横谷くん、彼女は三浦さんと言って、私が思うに営業部で1番仕事が丁寧で早いアシスタントだ。大抵のことは彼女が解決してくれる。何かあれば彼女を頼るといい。」

沼田部長が一真さんに私を紹介した。

まさか沼田部長がそんな風に思っていてくれたなんて想像もしてなくて、照れ臭さと嬉しさで目頭が熱くなる。

佐々木先輩に冷たくされた後だから、なおさら『じーん』としてしまった。

しかし、ここで涙を見せてしまったら、せっかくの沼田部長の言葉が台無しになってしまう。
グッと堪え、気持ちを正して一真さんに挨拶をした。

「2課のアシスタントしてます三浦です。よろしくお願いします。」

「横谷です。これからよろしく頼む。」

一真さんは優しく微笑んだ。

その笑顔にホッとする。

「早速で悪いが三浦さん、今週の金曜日、横谷くんの歓迎会な幹事を頼むな!横谷くん、好き嫌いがあれば彼女に言ってくれ。」

「僕は好き嫌いないから何処でもいいですよ。三浦さんにお任せします。」

「かしこまりました。メンバーは営業部のみでよろしいですか?」

この様な会は時々、他部署の役職付きを呼ぶこともあるので念のために確認する。

「あぁ、そうだな。営業部全員に声かけてくれ。他は今度改めてやる事にするよ。」

「承知しました。」

今週末に30人程度のキャパがある店を探すのは結構大変だ。お店によっては貸切にしなければならない。
手持ちの急ぎの作業は運良く無かったので、席に戻ると急いで出欠の確認を取るアンケートを作成してメールで送り、会場となるお店探しをした。

運良くランチでもよく行く、会社から近いイタリアンレストランの予約が取れた。
ここのお店は個人店で広くはないので貸切になる。大勢で騒いだとしても他のお客さんの迷惑にならず、何か集いがある度に利用させてもらっていた。

時間と場所が決まったので詳細をお店のURLのリンクをつけてメールで周知しておいた。

後日、出欠の集計をしたところ、既に週末の予定が入っている人が多く参加者は20数名程だった。新婚で妊婦の嫁を持つ佐々木先輩は流石に欠席になっていたので、胸を撫で下ろした。
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