期限付きの政略結婚 〜過保護な副社長とかりそめ妻のすれ違い恋愛事情〜
4.近づいていく距離
それから三週間、坂本さんはお店には一度も訪れなかった。

マスターと亜矢に事情を打ち明けたら二人ともとても怒って、温厚なマスターが珍しく『もし今度坂本さんが来たら追い返す』と憤慨していたけど、もう心配する必要はなさそうだ。


あの日以来斗真さんは、帰宅してくると開口一番「大丈夫だったか?」と深刻な口ぶりで問うようになった。

私が「大丈夫ですよ」と答えると、斗真さんは心底ホッとしたようにため息を吐く。

そして私を抱きしめるのだ。

「よかった。何かあったらすぐに言ってくれ」

キスをされたのは坂本さんに会ったあの日一度きりだけど、毎日そうやって抱きしめるようになった斗真さんに、私はドキドキさせられっぱなしだ。

最近の斗真さんは本当にどうしたというんだろう。

まるで人が変わったみたいだ。

子どもを心配する父親のような気持ちなんだろうか。

そうだよね。色気とは縁のない私なんて、斗真さんにとっては子どもと変わらないのかもしれない。

彼女はもっと、ずっと大人っぽくてセクシーだったもの。

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