モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
聖女

 ダールベルク王国王宮、国王の執務室。

 険しい顔をした国王は、報告書に目を通すと顔をしかめた。

「聖女についてなんの進展もないと?」

「はい。手を尽くしていますが、いまだ手がかりすら見つかりません」

 機嫌が悪化した国王に家臣たちが萎縮するのを横目に、ユリアンは成果のない報告を続ける。

「真の聖女が行方不明になったのは二十年前で、当時の関係者はほとんどが所在不明となっています。さらにフィークス教団が非協力的なため、調査が難航しています」
「教団はなぜ協力しないのだ? 聖女不在で困るのは彼らも同じだろう」
「そうですね。むしろ彼らの方が困るくらいだ」

 ユリアンはそう言うと、隣に並ぶ緑の髪の男性を見遣った。

 フィークス教団大司教スラニナは、ユリアンの発言が不快だったのかわずかに顔をしかめている。

 フィークス教団は、フィークスの神木という樹齢千年を超える大木に宿る女神を信仰している、ダールベルク王国のみならず他国にも強い影響力を持つ教団だ。

 彼らの至宝フィークスの神木は、精霊が暮らす異界とこの世を結ぶ鍵と言われている。だから召喚式では神木の実を食べて、より異界とのつながりを深めるのが慣例となっている。

 そのように非常に重要な存在である神木は、なにもせず放っておいたままでは枯れてしまう。神聖な力を持つ聖者――男性なら聖人、女性なら聖女と呼ばれる人間の特別な魔力が必要なのだ。だから神殿では、神木と同様に聖者を大切に保護する。

 しかし今からひと月前。神木がほんの一部であるが枯れているという情報を入手した。
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