魔法のいらないシンデレラ
第六章 シンデレラの忘れ物
(うう、頭が重い…)

瑠璃は、顔をしかめながら寝返りを打つ。

が、ふといつもの感触とは違うことに気づいた。

(ん?なんかシーツがパリッとしてる。ベッドもふかふか。まるで高級なホテルみたい…え、ホテル?!)

ガバッと起き上がった途端、ズキンとした痛みに思わず頭を押さえる。

(いたた…二日酔いかあ)

ゆっくりと夕べの記憶をたどる。

(そうだ。和樹さんとあんなことになって…そのあと部屋を出て、ロビーのソファに座り込んだんだ)

家に帰る気力もなく、帰ったところで家族に様子を不審がられて、うまくごまかす自信もなかった。

しばらくロビーにいたあと、なんだかやけっぱちな気分になり、バーに行ったのだった。

(そこで1杯カクテルを飲んだのは覚えているけれど、そのあとどうしたのかしら。それにここはどこ?)

部屋を見回してみるが、和樹と一緒に食事をした部屋とは違う。

だが、サイドテーブルに置いてあるメモ帳には、ホテル フォルトゥーナ東京と確かにプリントされており、やはりあのホテルのどこか別の部屋にいるらしかった。

ついでにデジタル時計に目をやると、5:50と表示されている。

(もう朝なのね。家に帰らなくてみんな心配してるかな)

テーブルに置かれてあったバッグからスマートフォンを取り出して見たが、メッセージや着信は1件もなかった。

きっと家族には、和樹と一緒にいると思われているに違いない。

(それにしても、どうやってここに?)

記憶がないというのは、なんと不安なことなのか。

と、ふと思い出したように、慌てて自分の服装を見下ろす。

(あ、あの時の服のままだ)

少しホッとして、瑠璃はベッドから降りた。
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