一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
13. あれから




季節はイルミネーションが街中に煌めく冬を迎え、妊娠九ヶ月の大きく膨らんだお腹を抱えた繭は今、いつものように会社で仕事をしていた。

そしてもうすぐ終業時間なのでデスクの整理整頓を済ませると、しばらく無人になる自席を名残惜しそうに撫でた時。



「明日から産休だな、今日までお疲れ様」
「部長、こちらこそ色々と本当にお世話になりました」
「何だよ、退職じゃねぇんだからもっと明るい挨拶にしろよ里中」



繭の席まで足を運び声をかけてきた部長は、出勤最終日の繭を労う。

産休の手続きや業務の引き継ぎで部長にはお世話になった上、椿との結婚についても心配をかけたし背中も押してもらった。



「あ、もう里中じゃないのか」
「お陰様で、先日無事入籍したので天川繭になりました」
「慣れねぇな」
「職場では今まで通り里中で働くので、よろしくお願いします」



切迫流産の危機を乗り越え安定期に突入した繭と、結婚の約束を交わした椿は直ぐに同棲を始めて生活を共にした。

その後はとんとん拍子に結婚に向けての行事が進み、両家の親への挨拶も結納もあっさりと済ませて、今月の初めに入籍する事が出来た繭は。

正真正銘、椿の妻となる。



「結婚式は……て、まずは無事に出産する事が先だな」
「そうですね、初めての子育てもあるので結婚式は当分先かと」
「でも子供に自分達の結婚式見せられるって、なかなか良いよな」
「え?」



部長の一言に反応した繭は、結婚式を挙げる事よりも今は出産について考える事が多くて、全く気付いていなかった。

子供が産まれた後に結婚式を挙げるということは、我が子に夫婦としての繭と椿の晴れ姿を見せることができる。


それは何て素敵なことだろうと、また楽しみが増えた気持ちになった。



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