一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
08.
本日は、待ちに待った週末。
この日のために平日の仕事を乗り切ったと言っても過言ではない繭は、初めてのデートで椿への想いをきちんと伝えようと思っていた。
結婚についてもしっかりと向き合って、よろしくお願いしますと宣言する予定だった。
「…………。」
なのに肝心の繭は今、自宅のベッドの上でパジャマのまま仰向けになっている。
待ち合わせの一時間前である現在、椿へと送ったメール内容は。
仕事の疲れが出てしまい体調が良くないので、本日のデートを延期してほしいというものだった。
「……運動会の練習を頑張り過ぎた結果、本番で熱出すアレと一緒だ……」
悪阻への対処は抜かりなく与えられた仕事もミスなく終えられたのに、張り詰めた緊張から解かれた瞬間に溢れ出た疲労感と熱っぽさ。
それは身体的なというよりは精神的な影響からきていて、無自覚のうちにダメージを受けていたんだと再び反省する。
お腹の子の為にももう無理はしないと誓った以上は、本日の椿との初デートを見送るしかなかった。
すると手の内にあったスマホがメッセージを受信して震え、繭が直ぐにメールを開く。
椿の事だから、怒ったり不貞腐れたりする事はないとわかっていても、申し訳ない気持ちを抱えながら文章を確認した。
「それは大変、俺の事は気にせずゆっくり休んで。デートはまたいつでもできるよ」
毎晩電話でやりとりしながら、互いに今日という日を楽しみにしていたのを知っている。
だから尚更、落ち込んでいるに違いない椿の気丈な文章は繭の心をキュッと苦しめた。
「はあ……」
仕方のないこととはいえ、本当にごめんなさいと打ちメールを送信した繭は、スマホを枕元に置いて静かに目を閉じる。