一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
09. 帰ってきた理由




住めば都という言葉の通り、一人で暮らす1LDKには繭が選んだ家電や好んだ家具で溢れていて、リラックスできるこの空間だけが唯一無二の都である。


休日の朝には寝室のレモン色カーテンが朝日を受け、繭の寝顔にも間接的に光を浴びせてくるのだが。

今朝はいつもと様子が違うので、眠りから覚めかけた繭が瞼を開けると、最初に視界に入ったのは、何故か椿の長いまつ毛。



「……んッ!?」
「っあ、起きちゃった」
「つつ椿さんッ今、え!?」
「おはよ、繭さん」



眠っていた繭の顔へ、被さるように椿の顔が間近にあった。

唇に残る感触から、寝ていた繭に無許可のキスをしていた椿なのだが、本人は何事もなかったように朝の挨拶をして振る舞うので、繭は寝起き早々混乱する。


いつも一人で寝ているベッドは、椿によるお馴染みのバックハグで二人仲良く眠りについていた昨夜。

繭の生活圏に椿が存在するこの不思議な感覚を昨日からずっと味わっている繭は、朝を迎えても未だそれを引きずっているようだった。



「繭さん、体調はどう?」
「えと、昨日ゆっくり休めたので良くなりました、悪阻も和らいできていると思います」
「良かった、じゃあ朝食準備するからキッチン借りるよ」
「あ、それは私がっ……ンッ!?」



すると今度は意識のある繭の頬に手を添えて、不意打ちのキスをしてきた椿。

最後にその唇を舌でなぞると、満足そうにベッドを降りキッチンへと向かっていった。


ベッドの上に取り残された繭はもちろん耳まで真っ赤になるも、椿の積極的な好意の現れは恥ずかしいというよりも嬉しさの方が勝り、そして心臓に悪い。



「なんかもう、後戻りできないほどに……」



椿の事で胸がいっぱいにもなるし、ずっと一緒にいたいと改めて強く思った繭が、しばらく悶えたのちにゆっくりとベッドを降りた。



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