貴方と私は秘密の✕✕ 〜地味系女子はハイスペ王子に夜の指南を所望される〜

その後の紺野洋子の話

「次の人事異動で、新しく設立される営業部署へ異動となるので、承知しておいてほしい」

 取ってつけたように優しげな表情を浮かべた部長から呼び出しを食らったので、何事かと思っていたところにこの内示。洋子は突然の辞令に驚くと共に、困惑の色を隠せずにいた。

 どうして自分に白羽の矢が立ったのか?
   
 社会人たるもの、会社都合による人事異動はある程度覚悟しなくてはならないだろう。しかし総合職ならいざ知らず、洋子は一般職である。本来ならばよっぽどのことがない限り、人事異動とは無縁の立場なのである。
 疑問は残るが、そもそもこの辞令の元である新部署設立事態がイレギュラーなことである。ましてや「その事務スキルが、新たに設立される営業部署にどうしても必要なのだ」などと熱心にも抜擢された理由を説明されたならば、徐々に悪い気もしなくなってくる。

「あなたは新部署、いや、この会社になくてはならない存在なのだ」

 そんなことを言われている気さえしてくる。
 神山透らとの給湯室での対峙以来、何をするにも良い事がなくて腐っていた洋子にとって、思いがけずに飛び出してきたこの内示は、そのボロボロに荒んでいた自尊心を大いに満たし、潤してくれるものだった。

 (仕事がデキる女、かあ……。これを機会にクールビューティに路線変更っていうのも、まあまあ悪くないわよね)
 
 そんなことを思いつつ、満面の笑みを浮かべると「もちろん。承知しました」と、この話を了承するのだった。

< 123 / 144 >

この作品をシェア

pagetop