断る――――前にもそう言ったはずだ

6.はじめての夜、モニカの願い

 祝の宴席も既に終わり、モニカは一人、広い寝室の中で縮こまっていた。

 今夜は侍女たちから、隅々まで身体を徹底的に磨き上げられた。
 甘い香りの香油を塗り込まれ、何度も何度も髪を梳く。爪を整え、寝化粧を施し、シルクのナイトドレスに身を包んでようやく完成。
 単身寝室へと送り込まれ、モニカの緊張は最高潮に達していた。


(どうしましょう? エルネスト様は本当にこの部屋にいらっしゃるのかしら?)


 初めて入る夫婦の寝室。今日のために新調されたのだろうか――――真新しいシーツの香りにドキリとする。


 世継ぎを作るのは王族の義務。
 そのための結婚。
 そのための妃。

 そうと分かってはいるのだが、エルネストの反応を想像するととても怖い。


(もしかしたら、「どうしてここに居るんだ」とか、「自分の部屋に戻れ」って言われるんじゃないかしら)


 自分はここに居ても良いのだろうか? 本当に彼と結婚したのだろうか?
 結婚式までの間、忙しさのあまり忘れていた疑問が、モニカの心に次々浮かぶ。


 こんな風にソワソワしてしまうことだってそう。もしかしたら、『みっともない』とエルネストの失笑を買うのではないか。
 緊張を紛らわせたくて、モニカはベッドの周りをウロウロと歩き回る。


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