断る――――前にもそう言ったはずだ

9.悲しい夜、野望に燃える夜

(今月も月のものが来てしまった……)


 モニカは一人、膝を抱える。

 週に三度、エルネストはモニカに触れる。
 子を作るのは王族の責務。妃に求められるものと言えば、何より世継ぎだ。

 けれど、結婚から三年、モニカには未だ妊娠の兆しはない。


 夕食を終え、深夜も近づいてきた頃、寝室の扉が静かに開く。
 ベッドの上で深々と頭を下げたモニカを、エルネストは冷ややかに見下ろした。



「――――申し訳ございません」

「今月もできていなかったのか?」


 毎月繰り返される同じやり取り。モニカは不甲斐なさに顔を歪めつつ、コクリと小さく頷いた。


「謝る必要はないと言っただろう。子は授かりものだ。モニカだけが悪いわけではない」


 エルネストはそう言ってため息を吐く。


「分かっております。けれど、あまりにも申し訳なくて……」


 モニカが妃でなければ、既に世継ぎができていたかもしれない。
 いや――――少なくとも、エルネストにこんな表情をさせずに済んだだろう。


 彼は本来人当たりがよく、とても柔らかな笑みを浮かべる人だ。こんな風に冷たい視線を向けるのはモニカにだけ。

 宰相の娘というだけで彼の結婚相手に選ばれてしまったから。
 義務感だけの触れ合いだから。
 せめて慈しめる相手との情事ならば、エルネストに不快な思いをさせずに済んだだろうに。


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