断る――――前にもそう言ったはずだ

13.王太子妃の寝室、陰謀

 一方その頃、モニカは私室のベッドに一人で横たわっていた。
 結婚して三年間、一度も使われたことのないベッドだ。

 石鹸の香りしかしないシーツに顔を埋めると、虚しさが一気に込み上げてくる。


(エルネスト様……)


 たとえ抱き締めてもらえなくても、彼が隣に眠っているだけで幸せだった。
 シーツの冷たさも、ベッドの硬さも、感じることなんて一度もなかった。

 たとえ義務感から来る行為だとしても、彼が頬にキスをくれる度に、涙が出そうなほど嬉しかった。


(もう二度と、一緒に眠ることはできないかもしれないけど)


 思い出は決してなくならない。
 いつか――――遠い未来に『そんな事もあったね』と笑い合える日が来るかも知れない。そうであってほしいと心から願った。


「――――失礼いたします、妃殿下」

「ヴィクトル? 一体、どうしたの?」


 ヴィクトルはモニカ付きの護衛騎士の一人だ。今夜はここで休むことを伝え、部屋の外で、相方のポールとともに護衛をしてくれている。
 なにか急用でもあるのだろうか?


< 67 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop