隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
第五章
 ルドルフの仕事を手伝うようになって一か月。アルベティーナは仕事の前に彼の執務室へ寄るのが日課となっていた。朝のたった一時間というわずかな時間ではあるけれど、その時間によってルドルフとの距離が縮まったような気がしているのは事実。いや、もしかしたらアルベティーナの思い込みかもしれない。だが、それでもいいと彼女は思っていた。
 あのヘドマン領の辺境の地の閉ざされた世界からやって来た彼女にとって、騎士団での生活というのは刺激的で魅力的なものであった。社交界に出るよりもずっと楽しい。そして、その楽しさの原因の一つがルドルフにあることに、いつの間にか気付き始めていた。
(私……。きっと団長のことが好きなんだ……)
 そう自覚し始めたのは、彼の仕事を手伝い始めてから二十日頃のこと。兄たちのことも、もちろん『好き』であるが、それとは違う種類の『好き』。そもそもあの潜入調査のときに、疼く身体を鎮めて欲しいと思った相手はルドルフだけ。けして兄たちではない。
 だから朝の手伝いの時間がどことなく楽しみになっていたその矢先――。
 あの国境のヘドマン領からコンラードが王都のこの別邸へとやって来たのだ。いつものように騎士団の仕事から帰ってきたアルベティーナは、慌てる侍女の手によって久しぶりにドレスを着せられた。騎士として働き始めてからは、屋敷にいるときもシャツにトラウザーズと、二人の兄と変わらぬような恰好をしていたからだ。
「元気そうだな、ティーナ」
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