セカンドバージン争奪戦~当事者は私ですけど?

episode④


江藤さんが女性からキャッキャと言われるのを鬱陶しく思って、あの丸い眼鏡を掛けていることが多いという話なんかを聞きながらヨウに送ってもらった電車の中で‘とにかく仕事中は仕事に集中出来ないような私的な話はしないで’と念押しした。

そして翌朝、初日に早すぎたかと思ったのと同じ電車に乗る。同じ電車で通勤しているヨウに‘早めに行くべきなの?’と聞いたところ‘一本後の電車の方が混んでる’と教えてくれたから。これ以上混雑する電車になんて乗れるはずがない…いや、たぶん私は混む前に乗ってるんだから降りられなくなると思う。

ぷっはー…電車を降りた瞬間、息を吐いた私の背中をトントンと優しく擦りながらも立ち止まらないように促す手の主はヨウだ。

「おはよ、ゆーあ。大丈夫か?」
「うん…何とか…酸素が恋しい」
「上で深呼吸だな」
「うん。昨日はありがとう、ヨウ。美味しかった」
「おう。今から働くぞ、新人」
「桐谷センパイ、お願い致しまーす」
「語尾を伸ばすな」
「地下では無理だ…酸素…」

通勤時間の後半30分ほどは本当に混んでいる。この息苦しさに慣れる日が来るのだろうか?

エレベーターに乗る時には青田さんにも会い

「大丈夫?坂根さん、何だか顔色が疲れてる?」

と聞かれる始末だ。

「通勤電車に慣れなくて…降りたので大丈夫です」
「おはよう。家賃補助については契約時に話があったと思いますがもう一度説明しようか?それともこちらで部屋をいくつか提案というのも可能だよ、坂根さん」
「ぁ…江藤さん…」
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