セカンドバージン争奪戦~当事者は私ですけど?
episode⑦

「今日は顔を見たから帰る。週末、駅前のカフェでモーニングしよう。あとで場所を送る」

そう言って私の頬を撫でると、江藤さんはこの建物に似つかわしくないくらいの優雅さを後ろ姿に漂わせながら立ち去った。メッセージ受信時間から考えても、2時間以上ここで私を待っていたと思うんだけど…

人をドキドキさせて、ばくばくさせて、沸騰させて帰って行くなんて、悪い人に違いない。そう思いながら玄関ドアを開けて、まだ慣れないプライベートスペースに身を置くと、ズルズルズルズル…膝を抱えて座り込んだ。

悪い人に違いないのに‘レディの部屋に安易に入れない’なんて囁かないで。

悪い人に違いないのに‘結愛が寂しくならないように毎日愛を囁く権利を俺にくれ’なんて真剣な表情で見つめないで。

こんな気持ちは初めてで、これまで誰かを‘好き’になった感覚とは全く違って戸惑うけれど、これが‘堕ちる’という感覚なのだろうと本能でわかってしまうことが悔しい。

悔しくて憎らしい彼の顔を思い浮かべながら、きっと江藤さんの思い通りになっているのだろうとも思う。週末のことも計算されているのだろうと思うと、その手には乗らない…という気が起こってくる。

好きだと認めるけれど、されるがままは気にくわない。私はスマホを手にすると一番上の不在着信にリダイヤルした。
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