夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
プロローグ
 純白のウェディングドレスに身を包むシャーリー・コルビーは、たった今、シャーリー・ハーデンとなる誓約書にサインをした。
 そのドレスは肩が大きく開いており、胸元には立体感が出るような形で繊細な刺繍が施されている。スカート部分のティアードも柔らかく、ボリュームがある。
 まさしく花嫁に相応しいドレスだ。
 彼女が隣を見上げると、白い騎士服を纏う夫となった人物――ランスロットが微笑んでいた。
 彼は王国騎士団の騎士団長を務め、さらにオラザバル王国の王太子であるジョシュアの乳兄弟として育った、由緒ある血筋の男である。
 燃えるような赤髪が特徴的で『燃える赤獅子』という二つ名を持つほどだ。黒い瞳も、その二つ名に相応しい力強さを備えている。
 そんな彼も、嬉しそうに口元を緩め、彼女を見下ろしていた。
 目が合うと、二人は誓いの口づけを交わす。
 触れ合う体温。ほんのわずかな時間であったのに、ぽっと互いの頬が熱を帯びるのには充分な時間でもあった。
 歓声と拍手が二人の耳に届く。
 これだけたくさんの人に祝ってもらえることに、二人にとっては胸が熱くなるような気持ちでいっぱいだった。
 特にシャーリーは、ちょっとした事件に巻き込まれてからというもの、男性が苦手となった。それを乗り越えて、今日の婚礼の儀まで辿り着いたのだ。
< 1 / 216 >

この作品をシェア

pagetop