夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
第三章『何か変なことを言ったか?』
◇◇◇◇

(どうしよう……)
 ナイトドレスに着替えたシャーリーは、大きな寝台を見つめながら立っていた。
 シャーリーが四人は眠れるような広さを持つ寝台だ。この寝台が広くて大きいのは、夫婦の寝台だからである。
 ようするに、この部屋は夫婦の部屋なのだ。
 夫婦というのであれば、夫と妻がいる。
 それが誰と誰なのか。
 もちろん、夫はランスロット、妻はシャーリーである。あの誓約書にはそう書いてあったし、それがこの屋敷関係者の共通の認識でもある。
 ――コンコンコン。
 扉を叩く音で、彼女は我に返った。
「どうぞ……」
 ゆっくりと開かれる扉の向こう側に立っていたのは、ランスロットである。
 彼は今、風呂からあがってきたところのようだ。ガウンを羽織っているが、前が大きくはだけていた。
 首からかけたタオルで滴る水滴を押さえているように見えた。
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