夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
第一章『ここはどこですか?』
 大陸の東に位置するオラザバル王国。海に面しているため航路を使った他国とのやり取りが盛んである。特に、北にあるデオール王国とは陸上と海上の双方によって、友好な関係を築いている。
 オラザバル王国の王都であるガザニアでは、つい先日、王国騎士団の団長を務めるランスロット・ハーデンが結婚をしたという話でもちきりだった。さらに、その婚礼の儀の最中に暴漢が現れ、彼の新妻が襲われたという話は、オラザバル王国だけでなく、隣国のデオール王国にまで伝わっていた。
 そして、その新妻が意識を取り戻さない――と。

◆◆◆◆

 彼女が気を失ってから、十日が過ぎようとしていた。
 ランスロットは今年で三十二歳になり、半年の間、清いお付き合いをしていたシャーリーと十日前に結婚をした。
 だがその婚礼の儀当日に、ランスロットに恨みを持つ男が現れ、彼を亡き者にしようと動いたのだ。
 祝いの場で全ての者が気を緩めているときに、すぐさまその異変を感じ取ったのがシャーリーであった。
 彼女はランスロットを庇うようにして暴漢の前に立ちはだかり、その彼女を邪魔であると思った暴漢の手に寄って、大階段の下まで転げ落ちた。
 恐らく、その時に頭を強く打ったのだろう。
 それ以降、彼女は目を覚まさない。
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