幼馴染みの鍵が開いた瞬間から溺愛が止まらない

番外編Ⅰ 私の席


 最近は、仕事が忙しくないので喫茶店に着くのは大体七時半くらい。
 店がすでに閉まっている時は、真っ直ぐ裏から入る。

 今日のようにまだ店が開いている時間は、正面入り口を通り過ぎ、店に沿ってガラス越しに中を覗きながら入る。
 こうすると、店のお客様の様子や従業員の仕事ぶり、どういった人が来店しているのか把握できる。

 今日も広いガラス越しにあの席を見やる。
 いた……。

 黒い長い髪の綺麗な後ろ姿。コーヒーをかき回す姿。
 髪をかき上げる後ろ姿。

 アノ席は、独身の私の特等席だった。
 カウンターの一番左端。
 厨房に通じるカーテンの目の前。

 ここ三日、彼女がそこに座っていることに気づいた。今日は木曜日。
 月曜定休なんだから、毎日来ているってことよね。

 そして、奏ちゃんが私にあの頃話していたように、頬杖をつきながら笑顔で彼女と話しているのを今日は見てしまった。

 どうしよう?どういうこと?

 確かに、先月は忙しくてほとんど帰ってくると寝るような日々だった。

 奏ちゃんの仕事の愚痴を聞いてあげる余裕もなく、土曜日は半日寝ていてろくに店に出なかった。

 日曜日は私目当ての昔から知る常連が大挙して来るので、その相手をしていると一日が終わり、週末が過ぎ去った。

 確かに、奏ちゃんを放っておいたことは、認めます。
 でも、結婚してまだ一年にもならないよ……。

 つまり、付き合ってからも一年経ってないと言うこと。

 私は会社で指輪をしてちゃんとしてるのに、奏ちゃんは調理の邪魔だと言ってネックレスにかけて服の中。
 そういうことなの?

 
 
 
 
 
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