今夜も君を独り占め。

誰にも言えない関係。

ー俺には誰にも言えない秘密がある。



俺は椅子を立ち，帰り支度を済ませた。

エレベーターに乗り，変わらない音を聞いて足を踏み出す。

前髪をかきあげてふと前を見ると，そろそろ何年目かと言う所の後輩がいた。



「お，お疲れ様です」



ひょろひょろなよっとしているそいつが，何を勘違いしたのかぺこぺこと去っていく。

ため息を吐いただけだろ……

また新しく，俺はため息を吐いた。

後は眉間のシワ，か。

一日中集中を強いられるのだから，人間疲れるのは当然だ。

それで一々畏怖される俺は，もっと疲れていく。

原因は明確だが，これ以上の配慮を俺がするつもりはない。

でも，それも今日の分はもうすぐ終わる。

自然と，俺は早足になった。

ウィーンと自動ドアが，その名前の通り自動で開く。

開かずに俺が額をぶつけると言うような事もない。

ビルの中よりずっと静かな外に出た時，そこにいた人物が



「お疲れ」



と俺に声をかけた。

『やあ』

とでも言うように，軽く片手をあげて。