囚われのシンデレラーafter storyー
1 あの日の熱が残る身体



二年ぶりにしたキス――。

最初のうちは、そっとお互いの吐息を確かめ合うように静かに重ねたもの。
触れた瞬間に、すぐに唇が離れる。
そして、二人で額を合わせて同時にふっと笑った。

「――なんだろうな。この気持ちは」
「すごく、嬉しいんだけど、なんだか照れくさいですね」

西園寺さんと額を合わせて向き合い、大きい手のひらが私の両頬を挟むようにして触れている。
その手首のあたりに、自分の手を添えた。

「30過ぎた男が、キス一つにこんなに緊張している」
「そんなこと言ったら、私も30歳を過ぎましたよ?」
「そうか……そうだったな」
「はい。着実に年を重ねています」

また、二人でふっと笑った。
でも、静けさの横たわる部屋で、そんな小さな笑い声はすぐに消えてしまう。

長くて骨ばった指が、私の耳にかかる。それと同時に、西園寺さんの顔の角度が少し変わった。
再び唇が近付く気配を感じて、そっと目を閉じる。

優しく包込むみたいなキス。
私の唇の輪郭を確かめるみたいなキス。

「緊張しているはずなのに、一度してしまったら、止められない」

ひたすらに甘いキスが繰り返されるうちに、西園寺さんを掴む手に力が入る。
そっと触れられていたはずの大きな手のひらが、きつく私の後頭部を掴んでいた。

穏やかだった吐息に熱が灯り始め、唇から漏れた音が静かな部屋に響き渡り始める。

気付けば、深く互いを求めるキスになっていた。

「――やっぱり。こんな風に、あずさに触れたら、キスだけじゃ済まなくなる」

さっきの、笑い合っていた時とは違う、掠れて艶を纏い始めた西園寺さんの声。

「夢じゃない、本物のあずさに触れてる」

夢じゃない――。

「もっともっと、実感したくなる。夢じゃないって、現実だって――」

この二年。狂おしいほどの熱を隠し持ちながら、眠っていた身体。

この人に触れられたら、一瞬にして目覚める。

二年前の最後の日、激しく刻みつけられて消えずにいた熱が眠りから目を覚まして、この身体を埋め尽くしていく。

「西園寺さん――っ」

心と身体が、西園寺さんに向かって騒ぐのだ。
この身体が求めるのは、たった一人しかいないって。

< 1 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop