囚われのシンデレラーafter storyー
3 焦がれる心と身体



「――あずさ」

バイオリンケースとスーツケースと。それを床に置くなり、後ろからすぐにその身体を抱きしめた。

「急に、どうしたんだ? そのままモスクワに戻るんじゃなかったのか……?」

まずは、いろいろと話をしたい。
顔を見て、話をしなければと思うのに。
会えないと思っていたその人が思いがけずに現実に現れて、こうして触れずにはいられなかった。

「うん。最初はそうしようと思っていたんです。でも――」
「でも?」

あずさの指が、きつく交差した俺の腕に触れる。

「佳孝さんと電話で話していたら、どうしても会いたくなって。それで急遽、チケット変更したの」

電話――。

2日前の電話。
あずさと話をした。その時、何と言っただろう。

”会いたくてたまらない”

と言った。

そしてすぐに、

”会えないのは俺のせいなのに、そんなことを言ってごめん”

と言った。

それで――。

「……今週末は、佳孝さん予定はないって言っていたしいいかなって。迷う前に、もういいや、行ってしまえって。いっそのこと、佳孝さんをビックリさせようかなって思ってね」

あずさが、小さく笑う。

週明けすぐレッスンがあると言っていた。

「本当は、俺のために無理して会いに来てくれたんじゃないのか?」
「違います。私がほんの少しでもいいから会いたかったの――」

あずさが俺の腕の中で身体をくるりと反転させ、胸に飛び込んで来た。

「……あずさ」

胸の中からあずさが顔を離し、俺を見上げる。その表情に、激しく胸が突き動かされて。

「会いたかった。凄く、会いたかったの――」

そう囁く唇を奪う。

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