囚われのシンデレラーafter storyー
7 二人の未来



 パリの中心部にある一番大きなホールで、この日、あずさの公演がある。

 あずさが舞台に立つのをこの目で直接見るのは、チャイコフスキーコンクールのファイナル以来だ。

 東京公演が素晴らしいものだったというのは、記事を読んで知っている。それを、この耳で確かめることになる。

 仕事を早々に終えて、パリの街を足早に歩く。

楽しみと、そして緊張と。何とも言えない、複雑な心境でホールへと向かう。

 せめて、あずさがコンチェルトを弾く40分間だけは、今朝の電話のことは忘れていたい。

ただ、あずさの音のことだけを考えていよう。

この日のために、あずさがどれだけ頑張って来たのか。

この心も頭も、全部、その音だけで埋め尽くしたい。



 会場に到着すると、既に多くの聴衆たちで賑わっていた。 

 ホールの外にも中にも、同じポスターが何枚も貼られている。あずさと松澤の姿が中央に写されたポスターだ。

こうして並んでいる二人を見ると、デザインがいいだけに大人げない感情が生まれる。
そんな感情はすぐに追いやる。

 準備したチケットを手に大ホールへと足を踏み入れた。その大きさと煌びやかさに、足が止まる。会場内をゆっくりと見回した。

ここで、パリの人たちの前で、あずさが演奏する――。

その事実に胸がいっぱいになる。

 チケットに記入されている席番号を元に自分の席を探す。あずさが勧めてくれてた、一番いい音で聴けるという後方真ん中の席だ。

 席に着きしばらくすると、開始を知らせるブザーが鳴った。座席はほぼ埋まっていた。

ただ聴くだけの自分でさえ緊張でどうにかなりそうだ。

あずさは、大丈夫だろうか――。

そんなことを思った自分に呆れる。

大丈夫に決まっている。
あずさはもう、立派なプロだ。

 まずはオーケストラのメンバ―立が舞台上に集まり始める。

そして――。
大きな拍手とともに、燕尾服を来た背の高い松澤と――ドレス姿のあずさが姿を現した。

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