若旦那様の憂鬱

束の間の2人の時間(花side)

「ごめん、ちょっと遅くなった。」
助手席のドアを中から開けてくれる。

「大丈夫だよ。わざわざ忙しいのにありがとう。」
そう言って車内に入る。

「俺が迎えに来たいって言っただろ。」
笑顔で頬を撫でられてビクッとして固まる。

「寒かったのに、外で待ってたのか?
室内で待っててくれたら良かったのに。」
と、渋い顔をされる。

「そんなに長く待ってないから大丈夫だよ。」
どこまでも心配症なんだからと思う。

手をぎゅっと握られて、またドキンとする。

「手も冷たい。」
柊君はそう言って、また渋い顔をしながら
シートベルトを締め車を走らせる。

恋人仕様の柊君は意外とスキンシップが多い事を知る。

少し行ったところで車を停め、
「ちょっと待ってろ。」
と、車から降りてしまう。

どうしたんだろうと見ていると、
自販機から何やら飲み物を買って戻って来る。

「これで温まった方がいい。」

そう言って、熱々のココア缶を渡してくれた。
私を温める為にわざわざ買って来てくれたの?

「ありがとう。」

熱々の缶は私の心まで温めてくれる。
柊君はにっこり笑って、
自分はコーヒー缶を一口飲んで、また車を走らせる。

「今日は雪だから行けないって見合い中止にしたら?」

柊君が急にそう言ってくる。

「うーん、交通機関が乱れるほどじゃ無いから…無理だよ。」
そう言ってなだめる。

本当に嫌そうな顔をする。

「そんなに心配しなくてもお断りしてすぐ戻って来るよ。」
笑いながらそう言う。

「嫌なものは嫌なんだ。」
なんだか今日の柊君は駄々をこねる子供みたいでかわいい。

ふふふっと笑ってしまう。
 
「笑い事じゃ無いぞ。」
そう言いながら苦笑いする。

「大人気ないけど、花の事になると気持ちが先立って自分を制御出来ない。」

そうなの?
そんな風には見えないけど、
いつだって冷静でしっかりしてて抜け目ない人なのに。

「そんな風には見えないよ?」
柊君はチラッとこっちに見る。

「そうか?いつだって花を優先したいし、
花の為ならどんな無茶だってしたい。」

「しなくていいよ…。」
そんな事言われると心配になる。

「今に始まった事じゃ無い。
昔から花がケガしたり、熱出したり、泣いてたりすると気が気じゃ無いし、自分の事よりも心配になるし冷静じゃいられなくなる。」
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