若旦那様の憂鬱

日常

忙しかった成人式がひと段落して、 
旅館も平常運転に戻る。

柊生は、写真館から花の写真が出来上がったと連絡を受け取りに向かう。

「お疲れ様です。
連絡ありがとうございます。
写真を受け取りに来ました。」
心なしか声に嬉しさが出てしまう。

花に出来るだけの思い出を残してやりたかった。
それが一枚の記念となってずっと残っていくのは、兄としてやはり嬉しい。

「お疲れ様です、若旦那。
すいません、お届けしたかったんですけど
今日は結婚式の前撮りが2件も入ってまして、
きっと、早く観たいんじゃないかと思って内線させて頂きました。」

「お忙しいところありがとうございます。
館内の見回りがあったので、
そのついでに寄らせて頂きました。」

柊生は、
喜んで取りに来たと言う事を隠しつつ、
さもついでのように取り繕う。

あくまで花は妹だ。

この溢れ出そうな切ない思いを、
誰にも悟らせてはいけない。

柊生は顔を引き締め、写真を確認する。
紺のドレス姿の花が可愛く微笑みを浮かべている。
スナップ写真はまるで、雑誌の表紙のように素晴らしい出来だった。

「花ちゃん、綺麗になったよね。
ホント、大人っぽくなって。
来た時はこんな小さかったのに。
もう、10年かぁー。」

「本当ですね。」
柊生も写真を眺めながら思いを馳せる。
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