彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode.1】
「それに、永峰取締役が私を放出してくれるかどうかもわかりません。前の仕事が好きで自分としても辞めたくなかったのも事実です。だからといって、今の仕事を放り出せるかと言えばそれも……」

「会長、並木さんは秘書検定も持っているので、業務部よりも秘書室勤務を希望していました。できれば、業務部長は森川さんでなく並木さんに秘書室へいってもらい、森川さんには残ってほしかったようです。業務部の戦力としての判断です」

 篠田さんが元気よくフォローする。

「そんなことはどうでも良い。永峰君に言い寄るような女はだめだ。もう少し、敏感に人事に取り組みなさい。人間関係は重要だ」

 会長は一刀両断した。篠田さんは下を向いてしまった。

「とりあえず、永峰君の秘書はその並木さんでない人を探すとしよう。そうしないと、森川さんに永峰君が固執しそうだ。森川さん、達也に一度会ってもらおうか。永峰君が帰ってくるのはいつだ?」

「明日の夜です」

「ふむ。では今日の夜にでも良かったら一緒に食事でもどうかね。私も入るから三人だが……」

 会長からのお誘いを断れるはずもない。

「はい。かしこまりました。何時頃になりますでしょうか?」

「七時くらいに料亭を予約しておこう。地下の会長専用車で行くから六時半くらいに上がりなさい」

「かしこまりました。その頃下に参ります。では、よろしいでしょうか。失礼致します」

 正直、頭が混乱したまま社長室を後にした。業務部の仕事を提案された喜びよりも、上が彼に内緒でこんなことを計画していることのほうが怖かった。
 
< 14 / 43 >

この作品をシェア

pagetop