跡取りドクターの長い恋煩い
ライバルに遭遇
 7階東病棟にいるのは明日まで。
ゴールデンウイーク明けには新しい病棟に配置され、指導医も他グループの先生に引き継がれる。

 どうしようか。できれば早く宗司くんと話がしたい。
でも今日は宗司くんが当直の日だ。
やっぱり明日の方がいいよね。土曜日の方がゆっくり話もできるし。

 「痛っ!」

 売店を出たところで、院内掲載ボードのポスターを張り替えていた白衣姿の女性が声を上げた。
 私は思わず振り返って、声をかけた。

 「あの、大丈夫ですか? あ!」

 傷を作ったのか、指を口に持って行っていたのは瑞穂さんだった。

 「ああ、大丈夫です。ちょっとポスターの端で切っちゃって」

 「……よかったらこれ、使ってください」

 私はネームフォルダの裏に忍ばせていた絆創膏を取り出した。

 そそっかしい私はよく傷を作る。瑞穂さんのように紙で手を切るなんて日常茶飯事。だから常に絆創膏を持ち歩いているのだ。
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