跡取りドクターの長い恋煩い
希望をつなぐ言葉
 マンションに戻り、シャワーを浴びる。

 今日1日何か特別なことをしたわけじゃない。ただ矢本先生のサイドに付き、病棟に行っただけだ。
 それなのに私は疲れ切っている。少し目を瞑るだけですぐにでも寝られそう……。
 
 でもそれとは別に、心の中ではピンク色の嵐が吹き荒れている。

 原因はもちろんアレ。点滴準備室でのキスだ。

 突然のことに驚いたけど、驚いたのは別の理由。私はあの感触を知っていた。

 17年前の記憶を掘り起こしてきた訳ではない。もっと最近の……そう、あの夜のことだ。

「キス、したんだ……あの夜……」

 時間が経つにつれて、少しずつ思い出してはいたのだ。ベッドの中で抱き合ったことも……。
 朧気だけど、宗司くんの名前を何度も呼んだ気がする。そしてキスも……。

 だからこそ、宗司くんはあんなに簡単に私にキスをしてきたのだろう。

 でも私には耐性がないのだ。キスひとつでドキドキしまくりだ。
 
 それに宗司くん、あそこじゃダメでしょう? 神聖な職場なんだから!
 ……いや、まあね、職場での突然のキスって背徳感があるというか、オフィスラブを実感してドキドキ感が増すんだけどね……って、何考えてるの私。
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