婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
第一部 番外編

上司は王太子


 俺はアイザック・ルース。
 当主だった父が借金を残して亡くなり、一度は領地も家もなくした子爵家の嫡子だった。だが、王太子フィルレス様のお引き立てで、今は側近として働かせてもらっている。

 フィルレス様のおかげで、俺は王都に小さいとはいえ屋敷を持つことができたし、母はフィルレス様の乳母を務めたとして十分な報奨を受けることができた。おかげで子爵家として存続することができたのだ。

 だから俺の忠誠はこの国ではなく、フィルレス様個人にある。
 同僚ともいえる『影』の奴らも同じだ。『影』とはフィルレス様の命を受けて、諜報から暗殺までさまざまな仕事をこなす部隊をいう。みんなフィルレス様になにかしらの恩義があり、絶対的な忠誠を誓っているのだ。

 今回はある伯爵夫妻の裏の顔をお披露目するべく、影たちは暗躍している。
 その進捗状況の確認も兼ねて、王都の繁華街へ飲みに来ていた。

「久しぶり。……早速だが、首尾はどうだ?」

 俺が酒場に着くと、ふたりはすでに到着していて酒盛りを始めていた。グレイは気だるそうに頬杖をついていて、シアンは目立たない街人の格好をしている。ふたりとも目立つ容姿だが幻影の魔法をかけているようで、周囲の人々は目もくれない。
 ちなみに俺は魔法が効かない体質なのか、元の姿のまま見えている。

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