麗しの王様は愛を込めて私を攫う

5 ひとりぼっち

 私は十六歳になった。

 相変わらず名前を知らない人から、赤い薔薇の花束は届けられている。

「最近は、カードが入っていないねぇ」
「そうね」

 そう、おばあちゃんの言うようにカードは私が「怖い」と言ってから入って来なくなった。

(聞いていたのだろうか? まさか?)


◇◇


「おばあちゃん、今日は具合悪くないの?」

 この頃、おばあちゃんの体調は悪い。
 疲れたと言って横になる事が増えた。

 歳のせいだよ、とおばあちゃんは言って笑っていた。

 家の事は出来るけれど、私は不安で仕方なかった。

 もしおばあちゃんまでいなくなっちゃったら、私は完全にこの世で一人ぼっちになってしまう。
 そんな事を考えてばかりの私は、毎日不安で一杯だった。


 そんな時、また花束が届けられた。
 キレイな赤い薔薇の花。

 服や靴、鞄などの贈り物も届いていたが、全て上等な物で、私は使うことが出来ず大切に仕舞っていた。
 本当にこの名もなき人は、何故私にこんなに良くしてくれるのだろう。


「アタシがいなくなっても、この人がメアリーを見ていてくれると思うと安心して逝けるよ」

「そんな事言わないで。名前も言えない人なんて、どんな人か分からないじゃない」

「こんなに長く花束や贈り物を届けてくれる人が、悪い人な訳ないよ」

 おばあちゃんは花束を見つめながらそう言って笑っていた。


◇◇


 三ヶ月後、おばあちゃんは亡くなった。老衰だった。
 葬儀は、隣のおばさんやダイアナが来て手伝ってくれた。

 みんなが帰り、一人になった家は広く感じる。

「おばあちゃん……」

 当たり前だけど、呼んでも返事は帰ってこない。
 訳のわからない不安と寂しさが押し寄せてきた。

 周りはどんどん変わっていく。

 唯一の友人だったダイアナは、既に結婚が決まっていて来月にはこの村を離れて遠くの街へと行ってしまう。
 男爵家に養子に行ったジェームスも、婚約が決まり、一年後にお嫁さんをもらうのだとおばさんが嬉しそうに教えてくれた。

 こんな時、私にも側にいてくれる人がいたらいいのに。

 けれど、私は好き人もいない。
 想ってくれる人もいない。


(……花束の人は別。名前も知らないもの)

 私は一人ぼっちだ。
< 13 / 40 >

この作品をシェア

pagetop