麗しの王様は愛を込めて私を攫う

10 リシウス陛下の気持ち

 見る間に小屋は焼け落ちた。

 何処からか大勢の人が現れて後始末をしている。

 焦げた木と何か分からない変な匂いがする。
 鼻につくその匂いに血の匂いも混じっていた。

 目の前にいるリシウス陛下からも、微かに血の匂いがする。
 ……まさか?

「リシウス陛下、怪我をしているのですか?」

 よく見れば彼の着ているシャツに血が付いていた。

「怪我? そんなのする訳無い。僕は強いんだよ、王様だから」

 彼は私に向け優しく微笑んで見せた。

 それを見たアダムさんは、感極まったように目を潤ませながら口を押さえている。



「でも、血が付いているわ」

「血?」

 私の視線をたどり、リシウス陛下は自身の着ている服に目を向ける。
 汚れた部分を見つけると、目を顰めて服を脱ぎはじめた。

「きゃっ」

 急な事に私は顔を両手で覆い隠す。

 だって男の人の裸なんて見た事がないもの……!


「もういいよ」

 クスッと笑ったリシウス陛下が私の手をそっと取り除ける。
 そこには、清潔な白いシャツに着替えている彼がいた。

 美しい銀色の髪が夜風になびき、松明のオレンジ色の灯を受けてキラキラと輝いている。
 私に優しく細められる青い瞳も。
 こんなに何もない場所なのに、輝いて見えるなんて、やっぱり……王様は普通の人とは違うのね。

「帰ろう。メアリーの傷の手当てをしないといけない」

 アダムさんに告げたリシウス陛下は、私を軽々と抱き上げると近くに置いてあった馬車へ乗り込んだ。
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