再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした

家族への紹介

 月曜日の料亭の帰り道。
 
 すっかり疲労困憊の私を気遣って、亮ちゃんはタクシーの中で優しく肩を抱き寄せてくれた。
 明日からのことは、大丈夫だと何度も言う。

 おそらくは、新田さんが上手にやってくれるのだろう。
 亮ちゃんより、そういうことは上手に処理できそう。
 っていうか、砂かけてきたのはあっちなんだから、当然だよね。
 こっちに砂飛ばさないでー。

 「どうしよう。社内の友人には本当のことを言ってもいいかな?」
 「いいよ、別に。恥ずかしいことなんて何もない。ただ、俺も社長や専務には言ってないから、俺の口より先に噂として耳に入ると良くないかも知れないな。」

 そうだよね。
 「……亮ちゃん。アメリカでもお付き合いしている人いたんでしょ?」
 「なんだ突然?まあ、いないことはなかったけど。」

 「もう、結婚してもいい年だから、縁談とかあったんじゃないの?」
 亮ちゃんはビクッとして、固まった。

 やっぱりね。だれもいないわけないじゃん。このスペック。
 「いや、見合いはない。大学の時に付き合っていた彼女の実家が取引先になってしまった。別れているのに、結婚を勧められたんだ。俺はその気がなくて、向こうが力業でこようとしたから、逃げてきた。もちろん、今後も雫一筋だから安心してくれ。」

 ……安心?どういうことよ。
 「父には、日本に忘れられない子がいると言ってある。父は信じていなかったが、母は俺が雫を大切にしていたのを見ていたからわかっている。いざとなれば母を味方につければ何とかなるだろう。」
 なんとかって何?そんな簡単なことならいいけど。

 「私なんて、何の取り柄もないですけど。普通の家庭の娘だし。」
 「何言ってるんだよ。こんなに可愛くてモテモテの雫を俺は戦って勝ち取ったのに、新田に渡すもんか。」

 どうも、違うような。おもちゃを取られたくない子供でしょそれ。

 家の前にタクシーが着くと、懐かしいと言って、下りてくる。

 そこで抱きしめられた。じゃあな。といってタクシーに乗って去って行った。


 

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
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