最後の詰みが甘すぎる。
第二局


「ねえ、柚歩。ちょっと廉璽くんのところにお遣いに行ってきてくれない?」

 ある土曜の昼下がり、自室でぐーたら漫画を読んでいた柚歩は母からの突然の要請にうげえと不満を漏らした。

「なんで私が……」
「だって今から町内会のドブ掃除があるんだもの。それとも、柚歩が代わりにドブ掃除に行ってくれるの?」

 ドブ掃除に比べたらお遣いくらいなんのその。
 柚歩は部屋着のジャージを脱ぎ、よそ行き用のワンピースに着替えた。

(出掛けるついでに買い物にでも行こうっと)

 軽くメイクして髪を梳かしていざ一階に降りれば、ダイニングテーブルにはご馳走が所狭しと並んでいた。
 混ぜご飯のおにぎりと唐揚げ、味付け玉子に春雨サラダ。それから廉璽の好きな母お手製のココアクッキー。

「これ、全部持っていくの?」
「そうよ?名人戦も近いんだし英気を養ってもらわなくちゃ。柚歩、タッパーに入れてくれる?」

 そうして、両手一杯に荷物を持たされ家から送り出される。

(おもっ……)

 タッパーがギッチギチに詰まったピクニックバッグは肩が抜けそうなほど重たかった。一体何キロぐらいあるのだろう?
 バッグの重さは母から廉璽に向ける期待の重さだ。相手が桂悟ならこうもいかない。

 廉璽を心配し気にかける母の気持ちもわからないでもない。廉璽は衣食住のどれもしっかりしていない。一人暮らし歴は桂悟よりも長いはずなのに、廉璽の暮らしぶりは目を覆いたくなるものがある。
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