最後の詰みが甘すぎる。
エピローグ

 最終戦までもつれこんだ怒涛の名人戦が終わってから三ヶ月後。 

 『MEIKO将棋部』への入部申し込み書を山崎に提出すると、したり顔で先輩風を吹かされた。

「これで瀬尾さんも晴れて職団戦のチームの一員だね。女だからって手を抜くつもりは一切ない。これからビシバシ鍛えるから覚悟してね」
「大丈夫です。山崎部長よりも夫のしごきの方が厳しいので」

 瀬尾柚歩から津雲柚歩に名前が変わった後も、柚歩は会社では旧姓を使い続けていた。
 津雲なんて珍しい苗字、万が一でも結婚相手が廉璽だとわかれば大騒動になる。

 津雲廉璽四冠の結婚は将棋連盟のホームページに小さく掲載された。世間でも相手の女性は誰かと話題になったらしいが、柚歩のことは一般人としか報道されなかった。
 将棋連盟の中にも人気の若手棋士の結婚を嘆く声も多かったというが、右近寺からの一喝で皆一様に口を噤んだらしい。

 二人が結婚するに至った過程を知るものはほとんどいない。でも、それでいい。
 将棋盤の前に座り続けた二人にしかわからない絆を、他の誰かと分かち合いたいとは思わない。

(待っててね、廉璽くん。すぐに追いつくから)

 廉璽は境界線の向こう側で柚歩が追いついてくるのを待っている。
 柚歩の物語は再び始まったばかりだった。



おわり


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