公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね

バーで見張る

 ジェローム・ダンヴィルの一挙手一投足を観察している。

 帽子を目深にかぶり、コートの襟を立てて顔の下半分を埋める。テーブルに覆いかぶさるように前のめりになり、その状態でジェロームを見つめた。その集中力は、いつもの自分からすれば驚くほどである。

 本来なら、バーに子どもは入れない。親といっしょに食事、というのなら別だけれども。子どもがたった一人、しかもこんな真夜中にやってくるなんてふつうは考えれない。もちろん、それはふつうのバーでの話。

 ここは違う。「三日月亭」などこういうバーは、ふつうではない。

 こういうところに酒を飲みに来る客は、ほとんどがワケあり。子どもだってやってくる。しかも、子どもたちだって大人と同じように酒を注文する。店側は、それに応じて酒を売る。

 ここでは、世間一般の常識は通用しない。
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