公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね

「何でも屋」にて

「何でも屋」の薄汚い事務所を訪れるのは、辞めて以来初めてのことである。

 ファース王国の王都は、東西南北にそれぞれ街区を設けている。

 南街区は、王宮と貴族階級の屋敷が並んでいる地区。北街区は、そのほとんどが森や公園という自然の多い地区。西街区は、市場や飲食店のある商業施設のある活気のある地区。東街区は、王都民のほとんどが暮らしている住居地区。

「何でも屋」は、西街区の飲み屋が軒を連ねる一画にある建物の二階にある。

 ところどころ穴があいていたりひび割れていたりする階段。段を踏みしめる度に「ギシギシ」とか「ギーギー」と音を立てる。

 懐かしさで胸がいっぱいになる。

 この建物は、元々は倉庫だった。それを、持ち主が他人(ひと)に貸して家賃が取れるようにと改造したらしい。つまり、もともと人がすごせるような設計になっていない。

 夏は死にそうなほど暑いし、冬は死にそうなほど寒い。

 わたしたち調査員は、通っているから百歩譲ってガマン出来る。だけど、ボスはここに住んでいる。

 いつもボスはよく死なないものだといつも思っていた。

 そんなことも含め、懐かしくてならない。
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