紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
最終章 玲哉の祈り
 四月にリニューアルオープンした薔薇園はなかなかの滑り出しで、マスコミ取材も多く、ゴールデンウィークには駐車場が満車になるほどの盛況ぶりだった。
 俺たちのウエディング写真がSNSで広まったおかげだと紗弥花はよろこんでいたけど、相関関係を計測するすべはないから俺としてはなんとも言えないところだということにしておこう。
 収益よければすべて良し。
 経営コンサルタントに求められるのは結果がすべてだ。
 実際のオペレーションでは、いくつかの不備は出たし、新たな課題も見つかっていた。
 プレミアム路線のレストランとカフェの建設についても、資金繰りの問題は片付いていない。
 それでも紗弥花はスタッフをうまくまとめて毎日前向きに取り組んでいる。
 その姿には頭の下がる思いだ。
 六月に入って、梅雨の晴れ間の昼下がり、久しぶりに休みを取った俺たちは真宮ホテルの近くにある寺院まで墓参りに来ていた。
 紗弥花の祖父母の墓だ。
「結婚記念日が晴れで良かったですね」
「まったくだな」
 あれから一年。
 長かったようで短かくもあり、いろいろなことがあって俺たちの今がある。
「おじいちゃん、おばあちゃん、見ててくれてますか」
 真宮薔薇園から摘んできた花を供えた妻が手を合わせて目を閉じた。
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