幼馴染みの秘めた溺愛  ~お前は女神でヒーローで

俺の秘密/side樹王

それから程無くして、俺は予定より少し早く退院した。
身体を鍛えているせいか怪我の回復は早かったらしい。

「やっと家に戻ってこれた…長かった」
リビングのソファにどかりと座り、上を向いて気持ち良く身体を伸ばす。

「三週間だもんね。でもすごく早い方だって先生言ってたよ」
美桜が俺の隣に座るから、チャンスとばかりに抱き締めた。

「ひゃっ」
「はー…俺、美桜を抱き締めてるよ…」
細くて小さくて、力入れたら折れそうだな。

「美桜…俺を見て」
…顔を上げた美桜の目が潤んでて色っぽい。
「可愛い…美桜、愛してるよ」
目を閉じた美桜の唇に優しく触れる。
そしてその柔らかい唇を食べるみたいに舐めて…気付けば美桜の口内で舌を絡めてた。
これはいわゆるディープキス…だな。
はぁ…美桜が愛しくてたまんねぇよ…

すると、美桜が俺の背中をベシベシと叩いた。

「どうした?」
「っはぁっ、はぁっ…長いってば…っはぁ…」
「息止めてたのか?」
「…止めてたっていうかできなかったっていうかわからないっていうか…はぁはぁ…」

ん?
「なぁ美桜、変なこと聞くけど…ディープキスって初めて?」
「…うん」
「マジで!?」
「…うん」

うわやばい、素直に嬉しい!
…ついでに聞いちゃおうかな…
「あのさ…美桜のファーストキスってさ…いつ?」
「え…っと…私の実家で…あの時、樹王にされたのが…初めてだけど…」

はあぁ!?
「…あれか!?…ほんとに!?」
マジでマジか!?

「情けないけど…ほんと」
「じ、じゃあ…セックスなんて…」
「あるわけないよねー…あはは…」

マジかぁぁぁ!

「よかったー!」
さっきよりも強くぎゅーっと抱き締めた。
「え…?」
「美桜が他の男に取られてなくてよかった…俺だけの美桜だ…マジで嬉しい」

体を離して美桜を見る。
「美桜のファーストキスは俺なんだろ?」
「うん」
「で、男もまだ知らないんだろ?」
「うん…」

「あっ、俺は美桜を抱いていいのか?」
「も、もちろん…樹王が嫌じゃなければ」
「嫌なワケねぇだろ。抱きたくてしょうがないんだから」
「ひゃぁ!…でっでもさ、あたし何も知らないよ?面倒でしょ?」

「何、面倒って」
「だって、樹王は彼女もたくさんいただろうし慣れてるだろうけど」

「それ言うなら美桜だってたくさん男いたんだろ?」
「あたし、付き合ったのは一人だけだよ。しかもあたしの気持ちがないのがバレてすぐフラれたから」

「ん?そいつが好きだったんじゃないのか?」
「ううん…あたしが付き合ったのは…樹王に彼女ができたから」

「俺に?」
「うん。樹王に彼女が…好きな人がいるんだから樹王のことは諦めようと思って…付き合ってみたけど、やっぱり諦められなくて…それが相手にも分かっちゃってフラれたんだ」

えっ?
「それいつの話だ?」
「高3の夏だったかな。それからは…樹王から彼女の話とか聞いてないし…あたしはずっと樹王が好きだったから、誰とも付き合ってないよ」

「マジか…はぁ…」
そうだったのかよ…

「…何?どしたの?」

俯いた頭をゆっくりと上げて言う。
「驚くなよ?…あのさ…俺もなんだけど」
「何が?」
「俺に彼女がいたって話。高3の夏な…ナントカって男が『今、美桜ちゃんと付き合ってるから』って俺に言ってきてさ。まさか…って思ってたけどある日美桜とそいつが二人で帰ってるとこ見て、マジかよ!ってショックで。俺もその時に美桜に聞けばよかったんだけど…怖くて聞けなくてさ。で、美桜を諦めようとして、告白してきた女と付き合った。終わり方も一緒。俺やっぱ美桜が好きで諦めらんなくて、女に優しくもできなくてフラれたからな」

「あたし、その人と一緒に帰った事なんてないよ。あ、一度…付き合う前に下校時に絡まれたことはあるけど…それかな」
「マジか…」

「ていうか…あたしのこと好きだったの?…その頃から?」
「ぶっちゃけもっと前から好きだったけどな」
「えぇ!…信じられない」

「…俺達すげぇ遠回りしたけど…でもこの長い時間は成長するのに必要だったよな、美桜も俺も」
「そうだよね。だからこそ今のあたし達なんだもんね」

「これから幸せな家族、作っていこうな」
「うん!…で、聞いてなかったけど、樹王は高校卒業してから、彼女とかたくさんいたの?」
「え?今のハナシを聞いた上でそれ聞く?え?わかんねぇの?」
「えっあぁ…彼女じゃないけど、やる事はやってたってこと?」
「は?」
「そういう事じゃないの?」

「全っ然違う!いいか、よく聞けよ?…俺も美桜と一緒。まだしたことねぇよ」
「…なにを?」
「だからセックス」
「……は?」
「だから童貞だっつってんの」
「……へ?」
「ちなみに俺のファーストキスも美桜と同じあの時だからな」
「…………」
美桜が口をあんぐりと開けたまま固まってる。ははは。
「美桜、言葉失ってるぞ」

「ちょ、えっ、樹王もあたしと同じ…ってこと」
「だから言っただろ」
「…っハァ?いやいや、えっ、信じられな…ハァ?どっ……なんてまさか!あわわ…」
「ははっ、何だその驚きよう」
可愛い。

「ちょっと待って…うそ…信じられないんだけど」
「ほんとだって」
「だって樹王ほどの男が…」
「それなら美桜だろ。こんなに綺麗で可愛い女なんだからさ」
「あたしは…樹王が好きだから…他の人とするとか考えられなくて」
「俺も同じ。美桜じゃなきゃ嫌だったからしなかっただけ。わかったか?」

「あっ!でも樹王、確かあの時、自信があるみたいなこと言ってたじゃない!あの、キスされて…押し倒された時」
あれな…
「だってさぁ、好きな女に偉そうに迫っといて『初めてだけど』とか言えねぇじゃん…俺は美桜が経験者だと思ってたしさ。あれはハッタリ」

「そうだったんだ……そういえばあの時、あたしげっぷしちゃって萎えさせたんだよね。ほんと残念な女、あはは」
「それ違うから。そんくらいでなんか萎えねぇよ。…あの時、美桜にとって俺はそういう対象じゃないんだな…って思ったらそれ以上手が出せなくてさ…嫌われたかもって不安だったよ」

「ごめんね…あの時…樹王が男の顔をしてて…初めてそう意識しちゃって…怖くなって…思ってもないこと言っちゃった…」
「…そうだよな、ごめん。怖かったよな…それにファーストキスもいきなりで…ほんとごめん。俺、焦ってた。恐れずにちゃんと好きだって言ってればよかったって、後悔してた」

今度は優しく抱き締める。
「ううん、私こそごめんね」
「俺、大事にするから、美桜のこと。だから俺とずっと一緒にいて」
「うん…一緒にいるよ、ずっと」

「俺の部屋行こう…キスの続きと…美桜を抱きたい」
「うん………って流されるとこだったけど、樹王は退院したばっかりなんだよ?職場復帰するまではキスだけね」

「ちぇー。いけると思ったのに残念」

でも、俺の身体を心配してのことだってのはわかるから余計に愛しくて…
美桜の可愛い唇に甘い甘いキスをした。
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