あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
プロローグ〜夢の中の恋人〜
「お嬢さん、俺とパーティを抜けませんか」

 ハロウィンの夜。
 包帯と火傷の仮装をしている男性が、エルフでサラリーマンの仮装をしている私に声をかけてきた。
 多分、私より五、六歳は上のおにーさん。

 背が高い彼は小腰をかがめながら、 火傷男(フライマン)シンゴと名乗った。

 顔は包帯のせいでよくわからないけど、おにーさんは多分モテリーマン。
 そんな彼が一緒にいてくれるのは、なんと()()に間違われた私をヤリ目的のゲイ男性から守るため。

 ナンパじゃないことにガッカリしたけど、シンゴは話しやすくて、一緒にいると楽しかった。だから、恋人になれなくてもよかった。

 けれど。
 私が彼の背中に出来た酷い傷痕にキスしてから、二人の関係は変わってしまった。

 彼の目が親切なおにーさんから男になり、私の目は女になった。
 モンスターとエルフは人間の男女に戻って愛し合い、そして。


 ◇■◇ ◇■◇


「…………あ」

 里穂は流れていく涙で目を覚ました。
 傍らには愛おしい子が眠っている。

 息子の一歳の誕生日パーティをしていて、うっかり寝入ってしまったらしい。

 愛おしい慎里を授かった日のことを夢に見ていた。

 のろのろと持ち上げていた腕を、息子の目を覚さないよう、そっとおろす。

「はぁー」

 夢を見たあと、つい部屋のなかを見回してしまう。
 だが、大好きな人はどこにもいないのは、いつものこと。

「慎里、もうちょっとしたら保育園に行かないとね。いい子にしててね?」

 我が子の頭を優しく撫でる。

 無理を言って息子の誕生日に有給をとったから、そのあとは準夜勤、夜勤、深夜勤とつづく。
 最後は日勤だ。

「お母さん、沢山働いて慎里の学費、いっぱい貯めるからね」
 
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